小説もコントも作るだけならなんぼでも作れる
五明 小説はどんなふうに書いているんですか? 何か意識していることってあります?
又吉 小説を書く時なぁ……。もし面白さを問われないなら、僕も五明も多分、1時間ぐらいでコントは書けるやん。1時間もいらんか。僕の場合、小説も同じで、面白くなくてええんやったら、なんぼでも書けるのよ(笑)。書けるけど、面白いコントとか、面白い小説としてやろうとすると、そんなに簡単にはいかない。今、『火花』と『劇場』の2作書いて、一応、自分の納得できるかたちにして発表してるけど、ほんまのこと言ったら、終わりはない。「お前のいちばん最後のコントはこれや。これでほんまにいいんか」「この小説が最後だけど、これでいいんか」となったら、「いや。これじゃ、よくないと思います」っていうことになるから。
五明 もっと面白くできるかもしれない?
又吉 そう。
又吉 小説でも何が面白いかとか、客が何を求めているかみたいなことも考えるし、色んな要素が絡み合っているというか。言葉をただ順番に置いているんじゃなくて、書いている時も行ったり来たりしながら、編み込んでいくイメージ。いろんな要素を編みこんで小説の形にしていく。話の筋が複雑に入り組んでいるのが自分としては好みで。だから、自分の作品の批評に触れる機会は多いけど、その批評を見て「なるほど、そういう読み方があったんか」と思うことは97%ない。
五明 言われることもだいたい予想がついちゃうってことですか? すべて想定内?
又吉 そう。「手前の読み方やな」と思うことがほとんど。「そう読むやろな、でも、そうじゃないねんで」と。だから、そうじゃないということを表明するために、この辺にこういう言葉を入れておこうとか。こういう構造にしとこうとか。そういう仕掛けをたくさんしてる。けど、「この人はそこまでたどり着けへんかったんやな」って、思うことがほとんどかな。
「ありがちやん!」と思う人のために何重にも仕掛けを用意する
五明 そんなん言われたら、もう誰も感想書けないじゃないですか(笑)「面白かったです!」だけしか。
又吉 いや、もちろん、読者に面白がってもらおうと思って時書いてるわけやんか。クイズにしてるわけじゃないから。どの地点でも、面白がってくれたらええねん。面白がってもらうために書いてるから、色んな仕掛けをする。面白がってもらうために書いたことを「いや、それよくあるやん。ありがちなことやん」って思う人のために、ありがちじゃない工夫をどう入れようか。そのありがちじゃない工夫でもなお、「いや、それもありがちやん」と思う人のために、また何を用意するかという。そこにどういうふうに感情をのせて、全然違うものにしていくか、その工夫をどんだけするかだから。「ありがちやん」とは思わへん人には、その読みかたで楽しんでもらえるなら、もう、それで成立してんねん。
五明 はあ。「ありがちやん」と言わせないために仕掛けを?
又吉 より楽しんでもらうためにな。
まっさらな気持ちで作品に接することが大事
五明 ハッピーなことをやりたいんですもんね。意地悪じゃないですよね。
又吉 「卵焼き食いたい」言うてるのに、むちゃくちゃ出汁がきいてる鍋とか作らへんやん? 「この中に卵焼きの旨みも全部入ってる」とか言わへんし。
五明 「こっちは、卵焼きの食感とかも含めて食いたいんだよ」って。
又吉 そうそう。そういう意地悪は別にせえへんけど、こっちが「カレーです」って言ってんのに、「いや、キムチ鍋はこんなんじゃない」みたいな評論がすごく多いのよ。こっちは「恋愛小説を書きます」「職業小説を書きます」って言ってるのに、「小説というものはね…」って、そいつがそれまでにもってきた小説観みたいなもので読み取ろうとするから。さっきの大喜利の話でいうと、その読み方はお題を読み取れてない。「これって、どういう料理なん?」「あ、こういう料理なんや」「これはどう味わうんやろう?」「こう味わってみようか」で、そこは俺なりの味わい方でやろうとせなあかんねん。常に新しい気持ちで、自分が得てきた情報と自分の感覚で、そのテーマにたどり着かなあかんのやけど、もうキムチ鍋食う専門みたいなヤツらがいっぱいおって、「俺はとり鍋しか認めません」みたいなヤツもおって。お題も読めてないし、作品も読めてない。
五明 だから、その評論家って誰なんですか!?(笑)
又吉 それって、よくあるやん、お笑いでも。「シュールなお笑いしか、私は認めません」っていう人は、むちゃくちゃベタな面白い芸人を見て「シュールじゃない」って言うし。それはもう味わえてない、食えてないっていう。僕は芸人になる前はやっぱりお笑いファンやったし、本を書く前は、今もやけど、文学ファンやから。自分の感覚に落とし込んで読もうとか、楽しもうとは思わない。ここで起こってることって何なんやろう? スゴいな」って。中学校の時から、皆が「あの芸人はおもろい」「あの芸人はおもろない」って言ってるのとはちょっと感覚が合わんくて、皆がおもろないって言ってる芸人も「いや、おもろいけどな」とずっと思ってた。
五明 まっさらな状態でお笑いを見て。まっさらな状態で小説を読んでいるってことですね。
又吉 そう。何見ても、笑ってまうし。
五明 そうですよね。意外と又吉さんってゲラ(=すぐ笑う人)ですもんね。
又吉 ゲラやし、後輩とか見てても、どんなタイプの芸人にも反応するやん。あかんのは、完全に何かの模倣とか、「こんな感じでやればいいんでしょ?」が見え過ぎるやつ。それは「別に君がやらなくてもいいんじゃない?」と思うけど、そうじゃなくて「あ、こいつのもんやな」と思わせるものが何かあったら、何でも楽しめるかなっていう。
五明 太ってるヤツが飯食うのとか、好きですもんね(笑)
又吉 好き。美味しそうやもん。だから、食べてもらって、食べてるとこを見たい。
五明 (笑)
なぜ芸人は客観性が高いのか?
又吉 初めて作品を見たお客さんが、どう思うやろうと考えるのは大事やんな。
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