芸人の仕事は減らさない
五明 又吉さん、今も芸人の仕事で忙しいですし、「いつ、やってるんだ?」って思うんですけど、どうやって両立しているんですか?
又吉 そうやな。今のところ、睡眠時間を削るっていうことになってるかな。でも、眠たくない時の方が頭は働くとは思うで。
五明 そうですよね。小説とか、エッセイとかを書くために、芸人の仕事を抑えたりはしてるんですか?
又吉 いや、抑えてない。
五明 芸人の仕事を減らしているわけではないんですね。
又吉 たとえば、テレビやったら、色んな人と会えるやんか。それが刺激になる。コンビで活動してる時は、相方の綾部が知らん人と会った時でも、知らん場所に行った時でもすぐに適応できる能力があったから、綾部についていくことでまたそこで刺激を受ける。コンビでやる以上は綾部の行く場所行く場所にちゃんと付き合っていくとを、つまり、コンビの仕事を最優先にはしてたな。一人になるとまた、ちょっと変わってくる。自分一人やと、今まで綾部と一緒やから入ってきてた仕事は減って、自分寄りの仕事が増えてくる。それが書く仕事とか、本に関する仕事やな。方向性を変えるつもりはないけど、自然にそうなってきているというか。でも、書く仕事のために、芸人としての仕事を抑えるということはないな。
五明 確かに芸人の仕事を減らすと本末転倒というか、芸人でありながら、そういう仕事をやるからいい、みたいなところもありますもんね。
又吉 ひとつの職業に特化すれば、作品をつくる時間を長くできるというのはあんねんけど、そうするとあんまり面白いものができひんと思う。やっぱりインプットしてアウトプットやから。一つのことしかやってない人の作品って、それしかやってないって分かるのよね。「この人、一切、音楽聞かへんのやろうな」「ファッションに全く興味ないんやろうな」「旨いもんに興味ないんやろうな」とか。「ここセンスあんのに、ここ雑やな」とか。なんていうか、客観的に自分の作品を見られてない感じがすごくあって。だから、皆、本を読んだり、映画を観たり、勉強して色んなものを吸収して、自分の作品をつくっていくんやろうけど。そういう意味でいうと、芸人の仕事ってかなり幅広いから。芸人の仕事をすることで色んなものが吸収できる。
五明 そうですね。芸人の仕事ってインプットすることはすごくたくさんありますよね。楽屋でしゃべってることが意外と、刺激になったり、アイディアに繋がったりもしますし。
嫌いでも見なあかんことはある
又吉 これから先は知らんけど、少なくとも今日現在で言うとな、日本という場所で表現する時に、テレビに出てるタレントを一人も知らんっていうのは、表現者として誇ることじゃないと思うねん。そこの感覚を間違ってる人が多くて。
五明 そんな人、います? 「ちょっとテレビは見ないんですけど」みたいなニュアンスですか?
又吉 そうそう。「テレビ嫌いなんですけど」はええねん。でも、嫌いでも見なあかんことってあるやん。ニュースとかで、最低限、世界で何が起こってるかとかは頭にないと。それを知った上で作品に反映させるか、させへんかは自分で決めればいいけど、その選択肢もなくて「テレビは知らんねや」みたいな文芸評論家とかは、何かが欠落し過ぎてて、「その若者観、古過ぎるやろ。そんなやったら、現代の小説で、お前が読めるヤツなんか一冊もないで」って思ってしまう。
五明 又吉さん、それ言い過ぎて誰か分かってくるんじゃないですか(笑)。
又吉 本人だけ分かるぐらいの感じで言うてんねんけど(笑)。
五明 そうですか(笑)
一つの表現にこだわる弱さ
又吉 やっぱり、テレビはすごいと、僕は思う。
五明 へえ。意外ですね。又吉さんの口から「テレビはすごい」というのは。
又吉 テレビがなかったら、そもそも芸人になろうと思ってなかったし、テレビを見てくれて、ライブに来てくれるお客さんもいっぱいおるし。もちろん、僕の場合は、文章を読んで来てくれるお客さんもいてるから、そこも大事にしたいけど。
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