2 神田達也
俺の息子の命を握っておきながら、俺に聞きたいことがシマウマの縞。イタズラか? 天然か? おふざけか? バカにしてるのか?
——シマウマって体の縞、縦縞が多いですか? 横縞が多いですか?
——なぜ、今、シマウマなんですか。
——知りたいんです。答えてください。
答えないと先に進ませてはくれないだろう。だから答えた。
——そりゃ、縦縞が多いでしょう。
当たり前の答え。シマウマの縞は縦縞が多いと思ってる人がほとんどでしょ。
——実は横縞の方が多かったりして。
自分の中の「当たり前」を否定されるのって腹が立つでしょ? だから。
——縦縞の方が多いですよ、絶対。
俺のその言葉を待ってるかのようだった。待ち伏せしていたかのようにね。
——「ミステリースパイ」を作ってる人でも、知らないことあるんですね。
あいつは目の前で、スマホで画像検索して見せてきた。それを見たら、自分の当たり前は正解ではなかった。シマウマの縞、実は縦縞なのは胴体部分の後ろの部分だけ。頭から胴体の真ん中までが横縞。足も横縞。
——七割ほど横縞なんですけど。
笑いをこらえるのに必死なあいつ。だから正解を見せられてるのに、引くに引けなかった。
——シマウマが餌を食べる時みたいに首を水平にしたら、ほとんど縦縞になるでしょ。
——それは餌を食べてる時だけでしょ。
——普段は首が下向いてる状態の方が多いかもしれない。だとしたら縦縞でしょ。
俺の絶対に勝てないプレゼン。穴だらけの言い訳の途中で、また笑った。
——知らないことを言われるとムキになるんですね、いつも。あ、僕、優しい。
俺のプライドを落とし穴に落とすようなことをして、優しい? こいつが優しい? どこが? いや、優しかった。ヒントをくれたのだから。この四人の中からクイズ作家の木山光さんを探し出すヒントを。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。