幸せな味覚とは
五感の四番目は味覚。その主役は舌です。 味のセンサーである「味蕾」は、舌の表面にあり、味のもとになる化学物質が触れると、ほかの感覚同様、その刺激を電気信号に変えて脳に送ります。
味覚を伝える神経は一種類ではなく、舌の前の三分の二は「舌神経」(第Ⅶ脳神経の顔面神経の枝)で、後方三分の一は「舌咽神経」(第Ⅸ脳神経)に支配されています。ちなみに、舌を動かすのは「舌下神経」(第Ⅻ脳神経)で、全部で十二本しかない脳神経のうち、三本が舌に関わっているのは、舌がいかに生きていく上で重要かを物語っています。
人間の味覚には、甘味、塩味、苦味、酸味などがあり、かつてはこれが味覚の四要素といわれましたが、今はこれに、「うま味」という微妙なネーミングの味覚を加えて、「基本五味」といいます。 うま味を発見したのは日本人で、1907年、池田菊苗(1864~1936)が、ダシ昆布から抽出した「グルタミン酸」がはじまりです。
その後、鰹節から「イノシン酸」、シイタケから「グアニル酸」などが抽出され、うま味の存在が認知されました。 グルタミン酸は言わずと知れた「味の素」の主成分で、化学調味料の走りです。私は子どものころから味の素が大好きで、卵かけご飯や漬け物、刺身の醤油や大根おろしなどによくふりかけていました。あまりにおいしいので、砂糖水に入れたらどうかと思って試しましたが、これはまずかったです。
味にはほかに、辛味、渋味、脂味などもありますが、それらは舌触りなどと同じく、化学物質としてではなく、直接神経を刺激して感じるものとされています。また、味覚の受容体は「軟口蓋(上あご)」にも存在するので、入れ歯などで覆うと、味がわかりにくくなります。 老人は薄味を好むといいますが、味覚もほかの機能と同様、老化で徐々に低下しますので、微妙な味は感じにくくなるはずです。
脳梗塞などで、大脳皮質の味覚野(側頭葉の43野)が障害されると、味がわからなくなります。おいしさを実感できるのは、ある程度若いうちと心得ておいたほうがいいでしょう。 ほかの感覚同様、味覚にも敏感な人と鈍感な人がいて、前者はいわゆる味のわかる人ということになります。しかし、その人が幸福かどうかはまた別問題です。味覚が敏感な人は、食材の鮮度などもわかるので、少し古いとおいしく感じられないし、化学調味料などもすぐに見分けてしまいます。むしろ鈍かったり、未熟だったりするほうが、幸せな味覚といえるのではないでしょうか。
舌を噛んで死ねるか
味覚とは離れますが、舌には白いコケのようなもの(「舌苔」といいます)が生えています
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