[写真→文章]を繰り返していくフォーマット
伊藤ガビン(以下、伊藤) それでは、本の内容について聞いていきましょう。
まずこのフォーマットですね。1つの見開きに1つの写真があって、次の見開きにはテキスト。文字数もだいたい同じ。こういうフォーマットにしようと思ったのはどうしてですか?
菅俊一(以下、菅) そもそも、そんなに長い文章を書くのが得意じゃないんですよね。ライターみたいに何千字をばっと書く、ということができない。論文は緻密に章立てしてロジックを立てて、1行、1章の文章量を決めて構築していくから建築みたいに書けるんですが。だから数百字くらいの、どの単語を使うのか、どういうリズムで句読点を入れるかも管理できる、自分の範疇で収まる文量にしました。
伊藤 ページを1ページずつめくっていくっていうことが、ある種の筋トレ的なルーティンになっている、という作られ方でしょうか。
菅 写真を文章よりも前にしたのは、文章が自分の解釈の答え合わせになっているような感覚です。別解もたくさんあるし、読者にはそうじゃない解釈についても考えてほしい。
伊藤 別解、すごく楽しいんですよね。この本の一番最初に載っている写真の菅さんの見立ては、水が流れた瞬間に道がデコボコしていることがあからさまに可視化されたということですが、僕は、ホームベースだと思いました。
菅 この形が。なるほど。
伊藤 ここはブラジルの貧民街ですよね。サッカー選手になるしかこの世界から抜け出すための道はない。そこでみんながサッカーをしているときに、1人だけ野球がやりたいっていう少年がいたんです。普段はみんながストリートを占拠しているから、雨が降った日にしか野球ができない。そこで、ここにダンボールで作ったホームベースを持ってきて、彼が1人で野球をやって、泣きながら帰ったあとの写真がこれなんです。
菅 あ、ホームベースの跡なんだ。
伊藤 そんなふうに、いくらでも切り口はあるなと思って。物語喚起の方向で持っていくと、全部そういうふうに見れる。ストーリーを作りたい人がこういうものを1個ずつ作っていくと、引っ掛かりがあって面白い。
菅 人間って勝手に意味を見出しちゃうので、無意味な状態でいることってかなり難しいんですよ。そういうところが面白いんですよね。
予定調和になることをどれだけ避けられるか
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