「角は一流デパート白木屋、黒木屋さんで、紅白粉のお姉さんに、くださいちょうだい、いただきますと千や二千はくだらない品物です」。これ、誰が言ったか、知っていますか? 『男はつらいよ』で渥美清が演じるフーテンの寅さんがテキ屋としてモノを売るときに、よく言っていたセリフです。この映画、1969年から1995年まで全48作が公開された世界最長のシリーズとして有名ですよね。子どもの頃は、何やら古くさい映画だと思っていましたが、30代を過ぎたあたりで、はまってしまい、全作通して少なくとも3回は見たと思います。
この作品では、人間情緒あふれる下町が存分に描かれています。しかし、全48作の原作・脚本を担当した山田洋次監督は、どこかのインタビューで、そんな下町なんて実際には存在しない、みんなが憧れるファンタジーとしての下町情緒を描いただけだ、と言っていました。つまり昭和の当時、この映画を見ていた人から見ても「懐かしい」と思うような現実にはない遠い「過去」を描いていたのです。
今回は、この懐かしさについて考えてみます。キーワードは、ノスタルジアです。ノスタルジアとは、過去を悲しみと憧れの入り混じった思いで振り返るほろ苦い感情を意味します。
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