美人人気アナウンサーが報じた「狙撃事件の真相」

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」
女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強のマーケティング技巧」を持つ西城に弟子入りすることで解決しようとする七海。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第14回。

「相川響妃だ」

テーブル席に座っていたカップルの男性のほうが、向かい合う女性の背後を指して言った。 その喫茶店の南側の壁面には、大きな液晶テレビが壁に掛けられていて、何気なく、民放のテレビが流されたままになっていた。

秋山明良も、その声につられてテレビのほうを見る。 そこには、言うとおり、アナウンサーの相川響妃が大きく映し出されていた。

「こんにちは、『相川アイズ』の時間です」

テレビの中の相川響妃が言うと、バラバラに進行していたそれぞれのストーリーが一時停止するかのように、店中の視線がテレビに集まった。今、最も注目を集めている若手アナウンサーが相川響妃と言っていい。テレビを通して見ると、いつも近くにいるあの響妃が「相川響妃」と同一人物であることが、なんだか仮想現実に思えるときがある。

響妃は単に用意された原稿を読むアナウンサーではない。役回りとしては、自ら取材して記事を構成するアンカーに近かった。独特の嗅覚からスクープを連発していて、ワイドショーの時間帯に突発的に流される相川響妃の「相川アイズ」は圧倒的な視聴率を誇っていた。

それに拍車をかけたのが、美人チェリスト狙撃事件の独占スクープ報道だった。

番組の背景では、現場の映像がまた流されていた。幾度となく流されたその映像を見たことのない日本人を探すほうが困難かもしれない。事件現場に居合わせた響妃がスマートフォンで撮った、臨場感が溢れるその映像には、狙撃直後の観客の混乱と、ステージ上で必死に蘇生を試みながら叶わなかった心臓外科医藤野楓の絶望の姿が、リアルに収められていた。

「美人チェリスト狙撃事件で新たなスクープです」

神妙な面持ちで、テレビの中の相川響妃は言った。

「音量大きくして」

マスターがスタッフの女性に言う。

映像が切り替わり、アパートの一室が映し出される。取材映像である。カメラを相川響妃が先導し、部屋の中に入っていく。

秋山は、このときこのカメラの後ろにいたんだよ、と周りの人に言いたくなるが、誰も信じ るはずがないだろう。

照明が使われていないために、狭くて薄暗い部屋の中で、相川響妃の顔にも影が差している。
一瞬、撮影を失敗したかに見えるが、次の瞬間、それまで暗い映像だった意図が明らかになる。キッチンからリビング、窓がある部屋に抜けて、ベランダまで出ると、一気に明るくなった。そして、カメラの前には、人が多くいるビルに囲まれた公園が俯瞰で映し出される。

ベランダに出た相川響妃は、光の中で、自分に視線を十分に引きつけてから、マイクを握る。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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