人間は、幸福にすら飽きてしまう。ミラン・クンデラの傑作恋愛小説

京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う名著を選んでみた。44作目は、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』。恋愛って束縛するもの?それとも制限なんてまっぴら?あなたにとってはどちらですか?【Kindle版発売中】『人生を狂わす名著50』より特別連載。作家、有川浩も推薦! →公開は毎週木・金です。

恋愛で「重すぎる」「軽すぎる」自分に嫌気がさしたあなたへ

『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ
(千野栄一訳・集英社)初出1984

世界の軽さ VS 世界の重さ

人生に求めるのは軽さか? 重さか? 「プラハの春」を舞台にした哲学的恋愛小説。#海外文学 #チェコの作家による文学 #世界的ベストセラー #「プラハの春」を題材にした恋愛小説 #映画もおもしろいです #哲学的な話や凝ったつくりの小説が好きな人におすすめ #快楽は一回だけれど #幸福は繰り返されるものらしい


好きな恋愛小説ベスト3を挙げよ、と言われたら、この本を一冊として挙げたい(ほかの二冊は長くなるので割愛)。

 この『存在の耐えられない軽さ』という名タイトルを冠した小説は、チェコスロヴァキアを代表する、と言っていい小説家、ミラン・クンデラの作品。
 彼は「プラハの春」(同国で起きた、自由を目指した民主化改革)で共産主義政権に抵抗し、それによって作品が発禁処分になったこともあったりする人(この小説もプラハの春を舞台に描かれている)。
 この小説は、クンデラがチェコスロヴァキアからパリへ脱出し、国籍も剥奪された時期に発表されたもの。
 つまりは歴史とか革命とか政府とかそういったすべての運命に散々弄ばれた、自分の凄惨な経験も含んだ作品……なのだけど、その語り口は驚くほど軽く、ぴょんぴょん言葉が飛び跳ねるみたいに波に乗っていて、それは読んでいる私たちに不思議な快感を生む。
 ミラン・クンデラは、プラハの春をこんなふうに語る。

そこには戦車や威嚇のこぶしや破壊された家、血まみれの赤青白のチェコ国旗で覆われた死体があった。フルスピードで戦車のまわりを走りまわり、長い竿につけられた国旗を振りまわすバイクに乗った青年たち、それにセックスに飢えている、かわいそうなロシアの兵隊たちの感情を刺激する信じがたいほど短いスカートをはいていた若い女たちがいて、彼らの前で誰かれとなくあたりを通る人とキスをしていた。
「私」がかつていったように、ロシアの侵入は単に悲劇であったばかりでなく、不思議な(そして、けっして誰にも説明できないような)幸福感に満ちた憎悪の祭典でもあった。

 主人公トマーシュは、プラハに住む女たらしの脳外科医。
 ある日トマーシュは、手術のために向かった街で、ウェイトレスをしつつ写真家の道を志すテレザに出会う。
 テレザにほだされたトマーシュは、彼女と結婚することにする。
 しかし幸せな新婚生活も束の間、トマーシュに女の影がちらつきはじめる。自由奔放な画家のサビナである。ほかにも愛人のいるサビナとトマーシュは、お互いに束縛し合わない関係が長く続いていたのだ。
 そんな気配を察知したテレザが毎晩悪夢に苦しむようになった頃—1968年8月20日、ソ連軍によるチェコスロヴァキア侵攻の夜が来た。
 テレザはソ連軍の戦車と、糾弾の声をあげる民衆の波に交じって、カメラマンとしての仕事を果たす。トマーシュは群衆に交じってひたすらに叫ぶ。
 しかしチェコの民衆の声は弾圧され、再びソ連支配の空気が流れていく……。

人間が永遠に幸福に満たされない理由がわかる一冊

「テレザ、使命なんてばかげているよ。僕には何の使命もない。誰も使命なんてものは持ってないよ。お前が使命を持っていなくて、自由だと知って、とても気分が軽くなったよ」

恋愛にしろ政治にしろ、結局

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三宅香帆

『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)著者、三宅香帆による文学レポート。  ふと「いまの文学の流行りをレポート」みたいな内容を書いてみようかなと思い立ちました! なんとなく、音楽や映画だと「ナタリー」みたいな流行をまとめる記事っ...もっと読む

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コメント

m3_myk というわけで突然のミランクンデラ名言botでした。 クンデラの言葉はいつもキャッチー!哲学的な文章なのにだらだらせずに読者を魅きつけるのがうまくて、メリハリが巧い。 https://t.co/VpIYmjwwPE 1年以上前 replyretweetfavorite

ichikorita323 この本、途中で挫折していたのだけど、ちゃんと読み直そう 1年以上前 replyretweetfavorite

ikb 未読、「存在の耐えられない軽さ」。 チェコ、かあ。 オーストリア、ハンガリー、チェコといえ… https://t.co/YInpzjQEWH 1年以上前 replyretweetfavorite

m3_myk ▶︎cakes連載更新です! ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』をご紹介してます。 今回のタイトルお気に入り。 歴史にも哲学にもとれる小説だけど、私にとっては、恋愛小説だな。 https://t.co/VpIYmjwwPE 1年以上前 replyretweetfavorite