日本の、いや「私たち」の闇について知りたいあなたへ
『約束された場所で』村上春樹
(文藝春秋)初出1998
他人のいる「こちら側」 VS 他人のいない「あちら側」
村上春樹によるオウム真理教信者へのインタビュー集。「彼ら」と「自分」の「違いのなさ」に衝撃を受ける一冊。#ノンフィクション #村上春樹によるインタビュー集 #「アンダーグラウンド(講談社文庫)」の続編 #いろいろと重たい内容ではありますが現代日本に生きる自分たちとして読んでみたら衝撃を受ける一冊であると思います
紹介するのは、『約束された場所で』という本だ。世界的作家・村上春樹による、元(あるいは現役の)オウム真理教信者へのインタビュー集である。
楽しいことを知るばかりが世界じゃない。
世界にはいろんな人がいて、いろんな出来事があって、当たり前だけど明るいところもあれば暗いところもある。むずかしいこともあればやさしいこともある。理想どおりにいくときもあれば、矛盾だらけで結局何にもならないときもある。
当たり前のことだ。
だけど人はよくこのことを忘れる。
私もご多分にもれず。
何かを考えたり妄想したりすることが好きなぶん、頭の中で理想郷をつくりたがるし、幻想も持ちやすい。自分でも知らないうちに頭の中が暴走しはじめる。本を読むのが好きで物語の世界が好きで、現実や現実の自分なんていらないよー、と思うこともしばしばある。
けれど、実際に、理想郷がそこにあったとして、そこに行けば自分の理想が叶えられるとして、そこに私は行こうと思えるのだろうか?
たぶん、今のところ、思えない。
だって私には、とりあえずこの現実で手に入れたものとか出会った人とかそういうものがあって、なんだかんだそういうものが大事だから。
矛盾だらけで面倒で悪いこともいっぱいあって何もかも重たいけど、まぁ、こっちでがんばってくしかないよな、と思う。
重たいけど。
—だけど、この世界には、理想郷がそこにあったら、ぽんと「そちら側」に移ってしまう人がいる。
そちら側に行けるのならば、この世の絆を捨ててもいいや、と思える。
「そちら側に行けるのならば」。言葉で誘われ、そちらにしか理想を見い出せなかったような場合、人は簡単にそちら側に行ってしまう。
「そちら側」は、ある場合、現代では「宗教組織」という形で現れる。
「彼ら」と「自分」の「違いのなさ」に衝撃を受ける一冊。
地下鉄サリン事件を経て、どうしてその団体に入ったのか、どのような生い立ちで育ってきたのか、なぜ出家をしようと思ったのか……村上春樹というインタビュアーが、彼らの人生に対して問いを投げる。
細かい彼らの肉声が聴こえてくるような、不思議なインタビュー集だ。
巻末には村上春樹と河合隼雄による対談が載っている。この対談が、
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。