美女入門

ま、いいか。こう思った瞬間に、おしゃれから遠ざかる。

「美女入門」アンアン連載1000回を記念して、最新刊『美女は天下の回りもの』と、文庫『美女千里を走る』が、絶賛発売中です! 「林真理子書店」ほか、全国書店で「特製プレイバック小冊子」も配布中。cakesでは、記念すべき第1話から、順次特別連載しています。マリコの名セリフの数々、たっぷりご堪能ください。第20話は、1998年3月5日号「私の名声」。

最新刊、絶賛発売中!

『美女は天下の回りもの』(マガジンハウス)

 昨日のこと、仁左衛門襲名披露興行を見るため歌舞伎座へ行った。
 その際一階の後ろの方に、不思議な集団を見たのである。ふつう歌舞伎を見にくる若いコというとあるイメージがあるのであるが、そのコたちは違う。五十人もいたであろうか、誰もがおしゃれでカッコいいのである。男のコもいたのであるが、生意気に髭を生やしたりしてそれがまた似合っていてかわゆい。

「タダの大学生にも見えないし、あの団体はいったい何だろう」

 私が言うと、一緒に行った年下の友人も、

「なんか目立ちますね。どういう人たちか知りたいですね—」

 としきりに後ろを振り返る。私は彼らの正体が知りたくて知りたくて、頭がヘンになりそうだ。このまま帰ったら悔いと疑問のあまり今夜眠れなくなるに違いない。それで帰りぎわ、ごくさりげなくおとなしめの女のコにこう話しかけてみた。

「学校の課外授業に来てるのね」

「そうです……」

「わかった。大学の演劇部か何かなのね」

「いいえブンカです」

 ハタと膝をうちたい気分。文化服装学院の学生たちが、服飾史か何かの一環で歌舞伎を見に来ていたのか。どうりでみんなおしゃれだと思った。この学校は女の子のレベルも高いが、男の子もモデル風なのが何人もいるのだ。ブンカはやっぱりブンカであった。

 さてつい先日、私はテツオからものすごく嬉しいことを言われた。

「あんたもおしゃれがうまくなったね」

 考えてみれば、私たちが出会ったのはもう十数年以上前である。マスコミにデビューしたばかりの私ときたら、そりゃあ目もあてられなかった。それまでいた広告業界風のテクノファッションは、私に全く似合っていなかったけれど、堅固にそれを着続けていた。おまけにデブのくせしてワイズを好んだ。これは単にウエストがゴムだったからという理由による。今思うと、山本耀司さんに何て失礼なことをしたんだろうか……。そんな過去があるにもかかわらず、テツオはこう言ってくれたのである。

「やっぱり、あんたって業界じゃいちばんおしゃれなんじゃないのオ」

「えっ、本当!?」

「うん、女流作家業界じゃね」

 私はがっかりした。女性文化人業界、とか言われるならともかく、女流作家の業界というのはかなり狭い。“自称”の人を除けばそう何人もいないんじゃないだろうか。それにこの業界はわりとおしゃれに興味がない人が多いし、あってもコンサバ系である。
 が、誉められたことには変わりなく、私はこれをかなり誇張して夫に喋った。

「ケッ、それがどうした」

 と夫は冷たく言い放つ。

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美女入門

林真理子

ついに1000回を迎えた、アンアン連載「美女入門」。1997年の第1回には、こんな一文があります。「キレイじゃなければ生きていたってつまらない。思えば私の人生は、キレイになりたい、男の人にモテたいという、この2つのことに集約されている...もっと読む

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