美女入門

フラれたんじゃない。愛し合ったけどタイミングがずれただけ……。

「美女入門」アンアン連載1000回を記念して、最新刊『美女は天下の回りもの』と、文庫『 美女千里を走る』が、絶賛発売中です! 「林真理子書店」ほか、全国書店で「特製プレイバック小冊子」も配布中。cakesでは、記念すべき第1話から、順次特別連載しています。マリコの名セリフの数々、たっぷりご堪能ください。第18 話は、1998年2月20日号「失恋の記憶」。

最新刊、絶賛発売中!

『美女は天下の回りもの』(マガジンハウス)

 ロマンティックな夜であった。
 ロマンティックな散歩道であった。
 こういう時、一緒に歩いているのが女友だちだなんて、何て悲しいんだろうと思った。
 それでつい自慢話をしてしまう。

「この道さ、昔よく彼と歩いたもんだわ。コートの彼にぴったり寄り添ってさあ、もう離れたくなくって一晩中でもずうっと歩いてたの……」

 ふうーんと彼女は黙って聞いているようであったが、意地の悪い女であるからこういう一矢をはなつ。

「そんな好きな男と、どうして結婚しなかったの」

 正直なのが唯一の取り柄の私は、つい本当のことを口にする。

「私がフラれたの……」

 別れの電話のことを、まるで昨日のように憶えている。当時アパートの五階に住んでいた私は、半分本気、半分お芝居でこう叫んだものだ。 —たった今、窓から飛び降りて死んでやるからねっ!—  すると彼は静かに言った。 —君のそういうところが、もうついていけなくなったんだ

「えー、まー、ヒサンー、へえー、世の中にそこまで言われる女っているんだ」

 彼女は目がキラキラしてきた。本当に嬉しそう。私は昔の話なんかするんじゃなかったと後悔した。

「わかったわー、あなたが他人に対してやさしいわけが。ハヤシさんって案外みんなに気を使って、すごくやさしいじゃない。それって男の人にいっぱいフラれたからなのね」

 そこへいくとさーと、彼女は哀し気に眉を寄せたが口が笑っている。

「私ってダメなのよねー、子どもの時から男の人にちやほやされてたでしょ。大人になってからはスチュワーデスしてたから、これもまたモテまくってたわよね。だからさー、私って人に対してやさしくないのよ。あなたみたいになれないのよね」

 私がむっとしたのは言うまでもない。

 前にも書いたと思うが、私は典型的なM女である。男の人に尽くし、甘やかしていい気にさせてしまう。その結果、手ひどいめに遭うことが多いわけですね。
 が、こんな風に言ったり書いたりしていても、失恋の記憶というのはとてもつらい。どんな大昔のことだって、思い出すたびに胸がキュッと痛くなってしまう。
 男の人なんかもう信じられない、などと後ろ向きの気分にはならなかった。けれども、私は嫌われたんだ、という劣等感からずうっと逃れられなかったような気がする。

 ところがつい最近のこと、私はある人とひょんなことから親しくなった。先日ゆっくりとお酒を飲む機会があり、遅くまで盛り上がった。
 その最中、不意に彼女はこう言ったのだ。

「私、ハヤシさんの昔の恋人、よく知ってますよ」

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美女入門

林真理子

ついに1000回を迎えた、アンアン連載「美女入門」。1997年の第1回には、こんな一文があります。「キレイじゃなければ生きていたってつまらない。思えば私の人生は、キレイになりたい、男の人にモテたいという、この2つのことに集約されている...もっと読む

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