話題の角田光代訳『源氏物語』に迫る!

紫式部に選ばれた人が源氏物語を訳す|エッセイスト・酒井順子

話題沸騰! 角田光代訳『源氏物語』。2016年11月に刊行された「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」『枕草子・方丈記・徒然草』では、「枕草子」の全訳を手掛け、2017年1月には『源氏姉妹(げんじしすたあず)』を上梓した、エッセイストの酒井順子さん。現代の“清少納言”である酒井さんは「角田源氏」をどう読まれたのでしょうか。



普通に見えて、普通じゃない


 子供の頃、大人の会話に時おり出てくる源氏関係の単語が、謎めいて聞こえたものです。
 「ほらあの人、六条御息所だから」
 という言い方に「嫉妬深い」という意が込められているとは知らなかったし、
 「女三の宮ってところね」
 という言い方が、「中年過ぎた男がもらった若い妻」を示すとも知らなかった。「末摘花」などという優雅な響きを持つ言葉にもどうやら毒が隠されているようだったし、それらは大人の世界の隠語。秘密めいた物語にまつわる単語を操ることができる大人が、格好よく思えたものでした。
 その手の隠語を聞いていると、どうやら日本人にとって源氏物語とは常識の一部らしいことがわかったものの、しかし源氏物語は、はるかに高くそびえる山でした。書店の棚に源氏の全巻が並ぶ威容を見れば、「この物語を読めと?」と、腰が引ける。いつか自分も、源氏という大人の常識を身につける日が来るのか、はなはだ心もとなかったものです。
 教科書を除き、人がどのようにして源氏物語に初めて触れるかは、世代によって、そして読書傾向によって、異なりましょう。私の世代における「マイ・ファースト・源氏」は、大和和紀による漫画「あさきゆめみし」、という人が多いもの。この漫画によって、源氏物語という山は、ぐっと登りやすくなりました。
 しかしあいにく私は、女子向けの漫画を読む習慣を持っていませんでした。「あさきゆめみし」の存在すら知らなかったため、源氏初体験はグッと遅れることに。

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話題の角田光代訳『源氏物語』に迫る!

「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」編集部

発売以来、話題騒然!角田光代による新訳『源氏物語 上』。 『八日目の蟬』など数多くのベストセラー作を生み出してきた角田さんが“長編小説断ち”宣言をしてまで、現代語訳を引き受けた理由、実際に訳しはじめてからの苦労や「源氏物語」の魅...もっと読む

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bun_soku 【古典】 話題の角田光代訳『源氏物語』に迫る! https://t.co/kDwLmzCObm 6ヶ月前 replyretweetfavorite

ayasasaki108 世の中には、「普通な人」と「普通ではない人」がいるのではない。「普通さ」と「普通でなさ」が一人の人間の中で同居していることを、角田さんは誰よりもよく知っているのではないか。 と、酒井順子さん。 https://t.co/N37Yr5zwnp 7ヶ月前 replyretweetfavorite

Kawade_shobo 【連載更新】 7ヶ月前 replyretweetfavorite