第219回 有限と無限のはざまで(前編)

極限の問題が解けたところでテトラちゃんがふと口にした疑問。「僕」は考え始めるけれど……「無限を探そう」シーズン第5章前編。
【休載の予告(2018年3月9日)】

結城浩です。いつもご愛読ありがとうございます。

作者体調不良のため、2018年3月9日(金)の更新をお休みさせてください。

申し訳ありません。
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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
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極限値の和

ここは高校の図書室。いまは放課後。

僕は後輩のテトラちゃんと《極限》の問題を考えているところ。

第218回の続き)
問題1(極限値の和)

二つの数列$\LL p_n \RR$と$\LL q_n \RR$は、 $$ \begin{array}{lll} n \to \infty & \text{で} & p_n \to 0 \\ n \to \infty & \text{で} & q_n \to 0 \\ \end{array} $$ とする。

ここで、数列$\LL r_n \RR$の一般項を、 $$ r_n = p_n + q_n $$ で定義する。

このとき、 $$ \begin{array}{lll} n \to \infty & \text{で} & r_n \to 0 \end{array} $$ を証明せよ。

テトラ「《定義にかえれ》で考えます。先輩のアドバイス(第218回参照)にしたがって文字を使います!

$p_n \to 0$ということは、 どんな正の数$\EPSLN_p$に対しても、

  $n > N_p$であるすべての整数$n$について$\ABS{p_n} < \EPSLN_p$

という正の整数$N_p$が存在するということですよね。

それから、$q_n \to 0$ということは同じように、 どんな正の数$\EPSLN_q$に対しても、

  $n > N_q$であるすべての整数$n$について$\ABS{q_n} < \EPSLN_q$

という正の整数$N_q$が存在する、ということになります」

「そうだね、その通り」

テトラ「先輩、あたし、何をすればいいかは、わかったかも……」

「おお」

テトラ「《求めるものは何か》を考えますと、$$ \begin{array}{lll} n \to \infty & \text{で} & r_n \to 0 \end{array} $$ をいうために、$\EPSLN_r$に対する、$r_n$にとっての$N_r$を見つければいいんですね?」

「そういうことだね。どんな$\EPSLN_r > 0$が与えられても、ちゃんと$N_r$を見つければいい」

テトラ「どんな正の数$\EPSLN_r$に対しても、$- \EPSLN_r$と$\EPSLN_r$の範囲……《帯》の中に$r_n$がすっぽり入るように十分大きな$N_r$を選べばいい?」

「そうだね」

ここでテトラちゃんは長考モードに入る。

テトラ「あのですね、まだはっきりとはわかってないんですが、やろうとしていることを聞いていただけますか」

「もちろん、どうぞ」

テトラ「《与えられているものは何か》と《求めるものは何か》を考えますと、$\EPSLN_r$が与えられたときに、 $\EPSLN_p$と$\EPSLN_q$を使って、 $N_p$と$N_q$を利用して、 $N_r$を求める……という流れになるんじゃないかと思いました」

「へえ」

テトラ「なぜそう思ったかというと、あたしの目的は$\EPSLN_r$から$N_r$を見つけることです。 でもあたしの使える武器というのは、 $p_n$と$q_n$の極限値が$0$であるということだけです。 ということは言い換えると、$\EPSLN_p,\EPSLN_q,N_p,N_q$ を使うしかないということですよね。 あたしの手の中にはそれしかないから、それを使うしかないです」

「そうそう! すごいなテトラちゃん。そんなにはっきりと流れをとらえられるなんて、すごいよ!」

テトラ「き、恐縮です。ところが、そこであたしの頭はストップしてしまいました。 文字が多くて頭の中を飛び回り始めたんです。 次の一歩がわからなくて」

「うんうん。文字だけを追うとそうなっちゃうかも。ゆっくり段階を踏んで考えていこうよ。 まず、僕たちには挑戦者として$\EPSLN_r$がやってきた」

テトラ「挑戦者?」

「つまり、$\ABS{r_n} < \EPSLN_r$という$n$の条件を満たせるかという挑戦だね。$\EPSLN_r$が小さければ小さいほど厳しい条件になるから」

テトラ「ああ、そうですね。帯が狭くなりますから」

「僕たちは、十分大きな$n$のすべてについて、$\ABS{r_n} < \EPSLN_r$の範囲に収めたい。 《十分大きな》というのはあいまいだから、 《$N_r$という数が存在する》ことを明確にいいたい。 $n > N_r$となるすべての$n$について$\ABS{r_n} < \EPSLN_r$を満たすような、 そのような$N_r$は見つかるか?」

テトラ「はい、そこまではわかりますが……」

「$N_r$が存在するということは、最初の有限個の項は捨てられるということだね。 $n = 1, 2, 3, \ldots, N_r$についての$r_n$は無視できる。 捨てていい」

テトラ「はい、その感覚もわかります」

「ここで僕たちが使える$p_n$と$q_n$についても考えると、$p_n$も$q_n$も最初の有限個の項を捨てさえすれば、 絶対値をいくらでも$0$に近付けられるよね」

テトラ「はい、それもわかります」

「$r_n$の定義は?」

テトラ「$r_n = p_n + q_n$ですね。$p_n$と$q_n$の両方を足したものが$r_n$です。具体的には、 $$ \begin{align*} r_1 &= p_1 + q_1 \\ r_2 &= p_2 + q_2 \\ r_3 &= p_3 + q_3 \\ &\,\vdots \\ \end{align*} $$ で……むむむ?」

「何か、ひらめいた?」

テトラ「ひらめいたわけではないのですが、あたしたちが考えたいのは、 $$ \ABS{r_n} < \EPSLN_r $$ という不等式ですよね。$r_n$の定義からいえば、 $$ \ABS{p_n + q_n} < \EPSLN_r $$ を考えればいい……ってあたりまえのことでした」

「それ!それは大事だよね。だって、$\ABS{p_n} < \EPSLN_p$と$\ABS{q_n} < \EPSLN_q$は使えるから」

テトラ「でも、$\EPSLN_r$と、$\EPSLN_p, \EPSLN_q$の関係が……わかりません」

「え? いやいや、その関係付けは僕たちがするんだよ。不正確な言い方だけど、 $\EPSLN_p, \EPSLN_q$は何でもいいんだから、 $\EPSLN_r$をもとにしてうまく作ってあげればいいんだ」

テトラ「ははあ……もしかして、《半分こ》すればいいのでしょうか?」

「半分こ?」

テトラ「$\EPSLN_r$を二人で《半分こ》するんです。つまり、こうです。$$ \left\{\begin{array}{llll} \EPSLN_p &= \dfrac{\EPSLN_r}{2} \\ \EPSLN_q &= \dfrac{\EPSLN_r}{2} \\ \end{array}\right. $$ これで挑戦者$\EPSLN_r$を二人の数列で分担させられます! こうやってもいいということですよね? だって、$\EPSLN_p, \EPSLN_q$はどんな正の数でもいいわけですから」

「いいよ! どんどん進めて!」

テトラ「ええと、$\EPSLN_p$に対しては、$n = 1,2,3,\ldots,N_p$の$p_n$を捨てちゃいます。それから、$\EPSLN_q$に対しては、$n = 1,2,3,\ldots,N_q$の$q_n$を捨てちゃいます。 捨てちゃいます……あ、だめですね」

「あれれ?」

テトラ「二つの$N_p$と$N_q$が出てきますが、あたしが作りたいのは$N_r$なんです……」

「うわ……すごく惜しいんだけど、あと一つヒント言ったら答えになっちゃうよ。テトラちゃん、最後の一歩は自分でゴールしたいよね?」

テトラ「もちろんですっ! あと一歩なんですね? 考えます。ここまで考えたことは……」

  • $\EPSLN_r$が与えられて、あたしは十分大きな$N_r$を見つけたいと思っています。
  • $\EPSLN_r$を二つに分けて、$\EPSLN_p = \frac{\EPSLN_r}{2}$と$\EPSLN_q = \frac{\EPSLN_r}{2}$にします。
  • そうすれば、$n > N_p$となるすべての$n$について$\ABS{p_n} < \EPSLN_p$となります。
  • また、$n > N_q$となるすべての$n$について$\ABS{q_n} < \EPSLN_q$となります。

「……」

テトラ「それで《求めるものは何か》というと、十分大きな$N_r$でしたから……ああ、先輩、わかりました。あたりまえのことでした。 $N_p$と$N_q$のどちらか大きい方を$N_r$にすればいいだけなんですね……」

「そう! どちらか大きい方というか、小さくない方というか、ともかく、$$ N_r = \max(N_p, N_q) $$ にするんだね。 ところで、急にテンション下がったみたいだよ、《元気少女》のテトラちゃん」

テトラ「いえいえ、すぐに気づけなかったのにがっかりしたのです……」

「そんなことないよ。特に$\EPSLN_r$を二つに分けたところは発見ポイントだよね!」

テトラ「そうですね! では、答えをまとめます!」

解答1(極限値の和)

(証明)

二つの数列$\LL p_n \RR$と$\LL q_n \RR$は、 $$ \begin{array}{lll} n \to \infty & \text{で} & p_n \to 0 \\ n \to \infty & \text{で} & q_n \to 0 \\ \end{array} $$ なので、次のことがいえます。

(1)どんな正の数$\EPSLN_p$に対しても、正の整数$N_p$を選んで、 $n > N_p$であるすべての整数$n$について、 $$ \ABS{p_n} < \EPSLN_p $$ を満たすようにできます。

(2)どんな正の数$\EPSLN_q$に対しても、正の整数$N_q$を選んで、 $n > N_q$であるすべての整数$n$について、 $$ \ABS{q_n} < \EPSLN_q $$ を満たすようにできます。 (ここまでは、定義をなぞっただけです)

いま、正の数$\EPSLN_r$に対して、 $\EPSLN_p,\EPSLN_q$の値を、 $$ \left\{\begin{array}{llll} \EPSLN_p &= \dfrac{\EPSLN_r}{2} \\ \EPSLN_q &= \dfrac{\EPSLN_r}{2} \\ \end{array}\right. $$ と決めます。(これは発見ポイントです!)

すると、

  • $n > N_p$であるすべての$n$について$\ABS{p_n} < \EPSLN_p$になるような$N_p$
  • $n > N_q$であるすべての$n$について$\ABS{q_n} < \EPSLN_q$になるような$N_q$
が存在します。(これは定義からあたりまえです)

ここで、$N_r = \max(N_p, N_q)$と置きます。(これも発見ポイントです!)

そうすると、

  • $n > N_r$であるすべての$n$について$\ABS{p_n} < \EPSLN_p$
  • $n > N_r$であるすべての$n$について$\ABS{q_n} < \EPSLN_q$
がいえます。(これは定義からあたりまえです)

ここで、$n > N_r$のときの$\ABS{r_n}$を調べていきます。 $$ \begin{align*} \ABS{r_n} &= \ABS{p_n + q_n} \\ &< \EPSLN_p + \EPSLN_q \\ &= \frac{\EPSLN_r}{2} + \frac{\EPSLN_r}{2} \\ &= \EPSLN_r \\ \end{align*} $$ ですから、 $n > N_r$であるすべての$n$について、 $$ \ABS{r_n} < \EPSLN_r $$ がいえました!

これで、$n \to \infty$で$r_n \to 0$がいえました。

(証明終わりです!)

「すばらしいね!」

テトラ「ありがとうございます」

「細かい話だけど、テトラちゃんの証明の中で、$$ \ABS{p_n + q_n} < \EPSLN_p + \EPSLN_q $$ はどうして成り立つかいえる?」

テトラ「えっ……だって、$\ABS{p_n} < \EPSLN_p$と$\ABS{q_n} < \EPSLN_q$ですから……ああ、そうですね。あたし、さりげなく絶対値をわけちゃってますね」

「そうだね。もちろん結果としては正しいんだけど、いわゆる三角不等式を飛ばしちゃったよね。$\ABS{x + y} \LEQ \ABS{x} + \ABS{y}$の不等号には$=$が含まれてる」

$$ \ABS{p_n + q_n} \LEQ \ABS{p_n} + \ABS{q_n} < \EPSLN_p + \EPSLN_q $$

テトラ「確かにそうですね……」

「でも、証明はよくわかるよ」

テトラ「なんだか、すごく$\EPSLN{}N$論法がわかったような気がします。有限個の項を捨てちゃえばいいという感覚です」

「いまは収束する二つの数列の和の極限を考えたけど、同じように数列の差の極限や、積の極限や、商の極限も考えられるよ。商のときはゼロ割りの注意がいるけど」

テトラ「なるほどです。収束する数列では、基本的な計算は極限値で考えられる……?」

「そういうことになるね。基本的な計算によるけど」

テトラ「たとえば、数列の平均でもそうでしょうか」

「ああ、もちろんそうだね。$\frac{p_n + q_n}{2}$のような数列を考えれば、それは実質的に和と同じだからね」

数列の平均

テトラ「……あらら?」

「何かおかしい?」

テトラ「いえ、二つの平均$\frac{p_n + q_n}{2}$というのはいいんですが、あたしは別のことを考えていたんです」

「別のこと」

テトラ「二つの数列の平均ではなくて……たとえば、$n \to \infty$で$A_n \to 0$という数列$\LL A_n \RR$があったとしますよね。 そのとき、 $$ B_n = \frac{A_1 + A_2 + \cdots + A_n}{n} $$ という数列$\LL B_n \RR$を考えるんです」

「なるほど……《最初の$n$項の平均》ということだね」

$$ \begin{align*} B_1 &= \frac{A_1}{1} \\ B_2 &= \frac{A_1 + A_2}{2} \\ B_3 &= \frac{A_1 + A_2 + A_3}{3} \\ &\,\vdots \\ B_n &= \frac{A_1 + A_2 + \cdots + A_n}{n} \\ &\,\vdots \\ \end{align*} $$

テトラ「はい。$n \to \infty$のとき、$B_n \to 0$になる……んでしょうか?」

「そりゃそうなるよね」

テトラ「ほんとうに、そうなんでしょうか……?」

「だってそうだよ。これは明らかだね」

テトラ「で、でも……もしかしたら$A_1$がとても大きいかもしれませんよね。ものすごく大きい$A_1$があったとしても、$A_n$の極限を考えるときは《最初の有限個を捨てる》という必殺技が使えました」

「お……」

テトラ「でも、$B_n$はだめです。だって、$$ B_n = \frac{A_1 + A_2 + \cdots + A_n}{n} $$ ですから、必ず$A_1$が加味されてしまうからです。捨てられないんです。 $A_1$は$5000$兆かもしれません。とてつもなく大きいかもしれません。 $B_n$の収束を考えるとき、 どんな大きな$n$に対しても、$B_n$を計算するときには、その大きな$A_1$を使うことになってしまうんですが……」

「う……」

テトラちゃんの鋭い指摘に言葉を失った。

確かにそうだな。$A_n$の収束は、有限個の$A_1,A_2,\ldots,A_N$を捨てて考えることができた。 でも、《$A_n$の最初の$n$項の平均》を数列にした$B_n$には$A_1$が必ず含まれてしまう。

直観的には$B_n$は$0$に収束すると思う。なぜなら、$A_1$がいくら大きいとしても、 平均を取るときには十分小さな$A_n$たちがたくさん加算されて$n$で割るわけだから。

だから、$A_1$の大きさは薄められてしまうはずだが……それは直観にすぎない。

確信するためには証明がいる。

テトラ「先輩?」

「ごめん、ちょっと考えさせて」

問題2(平均の極限)

数列$\LL A_n \RR$は、 $$ \begin{array}{lll} n \to \infty & \text{で} & A_n \to 0 \\ \end{array} $$ とする。

ここで、数列$\LL B_n \RR$の一般項を、 $$ B_n = \frac{A_1 + A_2 + \cdots + A_n}{n} $$ で定義する。

このとき、 $$ \begin{array}{lll} n \to \infty & \text{で} & B_n \to 0 \end{array} $$ といえるか。

いえるなら証明し、いえないなら反証せよ。

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに11巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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hyuki 金曜日は『数学ガールの秘密ノート』の日。最新回は今回お休みですが、過去記事の無料リンクをツイートします。 公式 1年以上前 replyretweetfavorite

k_engut2 今回のお話は大学2年のときに確かにやっているようだが(写真)全く記憶になかった…。 2年弱前 replyretweetfavorite

chibio6 前回の回答、絶対値のところがおかしいと思いつつ、三角方程式の考えに思い至らなかった。しかも… https://t.co/zFTIdLfjzs 2年弱前 replyretweetfavorite

heliac_arc 唐突に登場する5000兆と、それにも負けない極限 2年弱前 replyretweetfavorite