和食はすでにタイ人の生活に定着した
バンコク中心部の、とあるショッピングモールの中を歩いてみよう。日本の暮らしで見慣れた、いくつもの看板が目に飛び込んでくる。モスバーガー、吉野家、ペッパーランチ、CoCo壱番屋、大戸屋……いまタイは、日本の大手飲食チェーンの進出ラッシュを迎えている。新しくショッピングモールができるときには、必ずこうした店が、いくつも入居する。そしてどこも、それなりにお客で賑わうのだ。
日本全国で見るような大手だけではない。例えば石川県を中心におもに北陸で展開している8番らーめんは、タイ進出が成功し、いまやタイ全土に100を超える店舗を持つまでになった。
また、日本で数店だけ飲食店を経営しているような企業が、次の店をどこに出そうか、と考えたとき、タイは確実にその選択肢に入ってくる……そんな時代になっている。
これらの日本食は決して、日本人在住者や観光客に向けてのものではない。ごくふつうのタイ人が、好んで次々に店に吸い込まれていく。行列している店さえある。
タイでは、一時の日本食ブームを経て、いまや日本食というものが、外食の大きな一分野として、完全に定着したのである。僕たちが外食で中華やイタリアンを食べるような感覚で、タイ人は日本食を食べるのだ。
とはいえ食材の輸送費などを考えれば地元の屋台の10倍はするわけで、モノによっては日本よりも高い。とんかつ屋のランチセット299バーツなんて表記をよく見るが、それって1000円じゃん……なんてつい計算して戸惑ってしまう。でもそんな僕の横を、タイ人OLが涼やかに入店していったりもする。
経済成長によってタイでは給料がどんどん上がっている。そしてタイ人はあまり先のことを深く考えず、貯蓄よりも消費を優先させる。OLさんの給料が高く見積もって3万バーツ、約10万円だとしたら、ランチでとんかつ1000円は、ちょっとやりすぎだと思うのだ。すぐそばには50バーツ(約160円)の屋台があるのだ。それでも、たまにはいいかと、ちょっといいものを食べてみる……。
そんなタイ人の消費意欲と、日本食への好意をあてに、飲食の進出は加速している。大阪から転進してきたある居酒屋の店長は「日本よりタイのほうが、へたしたら客単価が高いんです」と言った。
より活発な市場を求めて、飲食の分野でも「日本離れ」が進んでいるのかもしれない。
家系ラーメンも沖縄料理もある
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