アメリカではカーリングが大ブレイク
冬季オリンピックがそろそろ終わろうとしている。
「世界平和のための祭典」というオリンピックの存在意義が近年低下していると言われるが、ふだん私たちが目にしないスポーツに親しみを与えてくれるという意味では、まだ意味はある。
今季のオリンピック、アメリカ人を夢中にさせているのが「カーリング」だ。
ツイッターでは、ルンバとモップを使った「なんちゃってカーリング」の動画が出回り、玩具店で店員がスターウォーズのドロイドを使って遊ぶものまで出てきた。
わが夫も、冬季オリンピックの花形イベントの滑降競技やアメリカ人が大好きなアイスホッケーはそこそこに、毎晩カーリング競技に釘付けになっていた。
「カーリングおもしろいよね。観たことある?」というので、「ずっと前から知っているよ。その場で見たことがある」と言ったら驚いていた。
カーリングはもっとも古いチームスポーツのひとつで、北部ヨーロッパでは16世紀くらいから行われてきたと言われる。私が初めてこのスポーツのことを知ったのは、33年前に1ヶ月ほど住んだスイスでのことだった。
地元のおじさまたちが近所のスケートリンクで遊んでいるカーリングを観戦させてもらったのだ。体格の良い大人の男たちが大真面目にモップをしている姿につい吹き出しそうになったが、笑ってはならない真剣さを感じて必死にこらえたものだった。
カーリングがオリンピック競技になったのはそれから10年以上経ってからだが、いまごろこんなに人気になったのは、テレビ放映だけでなく、ソーシャルメディアの影響が大きいと思う。
このように人気になると、「やってみたい」と思う子供が増えるだろう。需要が大きくなるとアメリカでカーリングができる場所も増えるだろうし、スポンサーが出てきて経済的な支援もしてもらえるようになるだろうし、その結果、将来強い選手が出てくるだろう。
視聴者は間接的にスポーツの命運を変える
逆に、視聴者にとって退屈で魅力がないスポーツはスポンサーを失い、資金が減り、競技人口が減り、弱体化の道をたどる。
視聴者の感覚は、このように間接的にスポーツの命運を変える。そのうえ、移り変わりやすい。アメリカでも、日本のようにバレーボールはかつて花形競技だったが、現在人気があるのはビーチバレーだ。
身長185cmの夫の従妹は、1990年台にバレーボールでアメリカ代表選手になったらしいが、「今なら、迷わずビーチバレーに転向する」と言う。資金がなければ、スポーツを続けることができないからだ。民衆から「クール(かっこいい)ではない」とみなされたスポーツから才能が流出してしまうのも、人気凋落の悩ましいところだ。
だから、アスリートだけでなく、そのスポーツの関係者にとってもPRの機会としてオリンピックは重要な意味を持つ。
五輪史上最多の28個のメダルを獲得した競泳界のスーパースター、マイケル・フェルプスは、現役時代に「自分が活躍することで水泳の人気を高めたい」といった意味のことを何度も語った。そして、実際にそれに貢献した。「フェルプスのようになりたい」と思って水泳に加わった子供たちが全米に増えたからだ。
視聴者のスポーツへの情熱には、こういった良い面もあるが、困ったところもある。
自国の選手やチームを応援する気持ちが、嫌な感じの「愛国心」になるところだ。
敵意をむき出しする愛国心
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