池崎の元彼女、ハルナとの間に何があったのか?
話のきっかけをなんとか作ろうとユウカが口を開いた瞬間。
「池崎、あのさ……」
「あ、ごめん、電話だ。もしもし、あ、どうしたの、突然。えっ? 来週? うん、うん……」
誰だろう? なんだかとても胸騒ぎがする。
「わかったよ、じゃあ来週」
電話を切った池崎は「フゥ」とため息をついた。
「池崎、誰からだったの?」
「あ、母さんだよ。それがさ、来週末に東京に行くからうちに寄るっていうんだ。まったくいつだって急だから困るよ」
「えっ? 来週末? なんで急に?」
「なんか友達に歌舞伎に誘われたからそれで東京に出てくるらしい。そのついでに、うち寄るって。ユウカさんどうする?」
「どうするって……」
でも、これはいい機会かもしれない。
結婚するならいずれ池崎の親にも会わないといけないわけだし、むしろ気に入ってもらえれば停滞している結婚話がトントン拍子に進むかもしれないもんね。
「せっかく来てくれるんだから、ご挨拶させてもらうわ」
「そう? でもちょっとうちの親変わってるから大変かもしれないけど」
「変わってるってどんな風に?」
「そうだな、まぁ昔の人ってことだよ。今時とか理解できないからさ。だからほんとは同棲してるのも良く思わないと思う」
「え、結婚前に同棲するのはふしだらだってこと? やだな。そんな女に思われちゃうのは。じゃあさ、私は実家に住んでて池崎の家に遊びに来たってことで。ほかに注意しておくことは?」
「……言いにくいんだけど……」
「なによ、言いなさいよ」
「年上ってとこは突っ込まれそうだな……」
年齢については池崎をクリアしたと思ったら、次は池崎の親か。20代ならこんな悩みはなかったのに、35歳の壁がふたたび大きく立ちはだかる。
「もう、また嘘つくわけ?」
(年齢なんてどーでもいい! そう言ってくれる人が本当はいいのに、池崎に本当はそう言って欲しいのに……。でもそれすら言えない自分がもどかしい。)
ユウカは投げやりにこういうしかなかった。
「年齢の話にならないようになんとかしてよ」
「……うん」
「他には? 対策たてとくことある?」
「まぁ、いくら対策立てても、思いがけないこと言ってきそうだからとりあえずアドリブで切り抜けるしかないと思う」
「そんなんじゃ不安だよ。池崎ちゃんと守ってくれるよね?」
「そんなのあたり前じゃないか」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。