ぼくは、大学で消費者行動論という授業を担当しています。だいたい200人ぐらいの学部生を相手に授業をしています。ここ数年は昼休みの後に授業をしています。一方的にしゃべってしまうと、ランチを食べた学生は心地よく寝てしまいます。そこで、学生に話してもらう機会を意図的につくるようにしています。
そのひとつが、「知っているハンバーガー屋の名前を言ってくれる?」というものです。いちばん前に座っている学生にワイヤレスのマイクを渡します。最初の学生は必ずと言って良いほど「マクドナルド」と答えます。そして「後ろの学生にマイクを渡して」と言います。渡された学生には「前の人が言っていないハンバーガー屋の名前を言ってね」と頼みます。するとだいたい「モスバーガー」と答えます。またマイクを後ろの人に渡してもらって、答えてもらうことを繰り返します。ロッテリア、ウェンディーズ、ドムドムバーガー、バーガーキングなどの名前が挙がります。後ろの席に行けば行くほど、答えに詰まり、答えられない学生は、すぐ後ろの学生に渡します。もうないかなという雰囲気の中、「フレッシュネスバーガー」といった学生に、周りの学生は「おー!」と歓声をあげます。そうかそうか、まだあったのか、といった感じです。続いて「シェイクシャック」と答える学生に、周りはきょとんとしています。そんなときは「みんなすぐググって」と指示します。こうして実はいろんなハンバーガー屋があるんだと気がつき始めます。睡魔にやられていた学生たちも、ちょっとは面白がってくれます。
「なんで授業でそんなことするの?」と思ったかもしれません。このエクササイズ、今回、考えたい再生と再認という記憶をめぐる問題に関わっています。再生(recall)とは、ヒントがなくても何も頼りにせず、何かを思い出すことができる、ということを指します。一方、再認(recognition)とは、手がかりを見せてくれて思い出すことを指します。ハンバーガー屋のエクササイズは、再生を学生にしてもらっていると言えます。もし「マクドナルド、吉野屋、モスバーガー、CoCo壱番屋のうちハンバーガー屋さんはどれ?」という質問をしたら、それは再認をしてもらっていることになります。
思い出す立場からすると、再生と再認はどっちが簡単でしょうか? もちろんヒントを出してくれている再認の方が簡単ですよね。マクドナルドのように、トップシェアのブランドは、再生されやすいです。一方、うちの学生にとってフレッシュネスバーガーは再生されにくいけれども再認はされやすいブランドのようです。一方、シェイクシャックを知っている学生は多くなく、再生も再認もされていない、つまりまだ記憶されていないブランドです。
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