メゾン刻の湯

意識高い系22歳、ベンチャー社長に嫉妬する

刻の湯を訪ねてきた有名ベンチャー企業の若手社長・タカツキ。尊大な態度で周囲を見下す彼に対してマヒコは嫌悪を抱くが、一方で自分にはない地位や力に対する羨望も肚の底に渦巻く――。社会からハミ出たくせものたちの集まる銭湯シェアハウスが舞台の傑作青春小説、第23話です!

 ある日曜日の夕方、一人の男がうちを訪ねてきた。

 そいつは、玄関に乱暴に靴を脱ぎ散らかすと、たまたま迎えに出た僕とまっつんを、案内板か何かを見るような目で見て「アキラいる?」と言った。

 ちょうど昼寝から起きだしてきたアキラさんとその男がリビングでちゃぶ台を挟んで対峙するのを、僕たちは縁側の端で見守った。横でまっつんが「すげえ、あいつ、デジタル・トライアングルの代表のタカツキじゃん」と小声で言った。言われてみれば、金髪のツンツン髪、ごついメガネフレームは、毎日のようにSNSのフィードにシェアされてくる彼のインタビュー記事の写真そのままだ。

「なあ、アキラ、もう一回でかいことやろうぜ」そいつはソファにどっかり腰掛けると、両手を広げ、アキラさんに言った。この家のリビングに満ちた、誰のものともわからないぼやけた雰囲気が、その男の持ち込んだどぎつい色に一気に塗り替えられたみたいだった。

 真正面に座るアキラさんのパーカーは埃が被っている。光輝くシャツ、固そうなブランド物のジーンズに身を包み、威嚇するワシみたいに胸をいっぱいに広げて座るそいつと、猫背気味で、メガネなんかずり落ちていて、全てぼんやりした調子で三角座りをしているアキラさんは、まるで正反対だった。しかしアキラさんはそいつに物怖じする様子もなく、いつもどおりのニヤニヤ笑いを浮かべて、タカツキの顔を眺めている。

「新規事業、うまくいってないんですか」

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”正しく”なくても”ふつう”じゃなくても懸命に僕らは生きていく。銭湯を舞台に描く、希望の青春群像劇

メゾン刻の湯

小野 美由紀
ポプラ社
2018-02-09

この連載について

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メゾン刻の湯

小野美由紀

”正しく”なくても”ふつう”じゃなくても懸命に僕らは生きていく。「傷口から人生」の小野美由紀が銭湯を舞台に描く、希望の青春群像劇! どうしても就活をする気になれず、内定のないまま卒業式を迎えたマヒコ。住む家も危うくなりかけたと...もっと読む

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