妖怪処刑人 小泉ハーン

ここに友達はいない。誰も助けには来てくれない。

一九世紀中頃のダブリン。聖カスバーツ校に通うラフカディオ・ハーン、後の小泉八雲は、同時代にダブリンに生きたもう一人の狩人、ブラム・ストーカーと出会い、妖怪狩りの道へと進んでゆく……。
◆伝奇アクションホラー小説『妖怪処刑人 小泉ハーン』より「少年時代」編第3回!


 カチカチという規則的な時計の音だけが、トーマスの友人だった。

 王立ベドラム分院には、倫敦(ロンドン)の本院と同じく、重度の精神病患者が溢れんばかりに詰め込まれている。トーマスも皆と同様、薄汚れた麻の拘束シャツを着せられ、首輪をはめられ、野蛮な動物のごとく鎖で壁に繋がれているのだ。

 トーマスはベッドの上に座り込み、夜九時を告げる時計の音に耳を澄ました。ベドラムは療養院と呼べるような高潔な代物ではない。見世物小屋だ。医療費を広く一般から募るためという名目で、ベドラムは入館料を徴収し、入院患者らを見世物にしているのだ。毎日、何百人もの客がベドラムを訪れ、好奇の目や嘲りの目や哀れみの言葉を投げかける。

 幸い動物園とは異なり、ベドラムではまだナイトツアーは開催されていないが、見物客たちが帰った後も、建物内に安寧が訪れることはない。廊下から聞こえてくるのは、他の患者たちの声と、彼らが漏らした排泄物の臭い、そして騒々しい蠅の羽音だ。

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妖怪処刑人 小泉ハーン (単行本)

本兌 有,杉 ライカ,トレヴォー・S・マイルズ,久 正人
筑摩書房
2018-02-20

この連載について

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妖怪処刑人 小泉ハーン

ダイハードテイルズ

時は19世紀末。葵の御紋は未だ死せず。江戸城には無慈悲なる大老井伊直弼。永世中立交易都市たる京都神戸を境に、西部では薩長同盟が勢力を維持。一方、強化アーク灯の光届かぬ荒野には未だ魑魅魍魎が跋扈し、開拓地の人々を脅かし続ける。かくの如き...もっと読む

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