偉大なクリエイターや研究者たちの3つの口ぐせに学ぶ

前回、知的生産の本質に迫ったものの、そこには一つ疑問が残っていました。それは、人間が言う「理解」とは何なのか、ということです。石川善樹さんは、理解には3種類あるとし、さらに、偉大なクリエイター・科学者に共通する口ぐせも3つだと言います。「働き方改革から考える、知的生産の本質」編、最終回です。(聞き手:加藤貞顕)

理解には3パターンある

— 知的生産の2つのキーワードが、「現象」と「理解」で、それを行ったり来たりすることで生産活動がおこなわれる、ということはわかりました。でも一つ、気になることがあります。それは、「理解」とは何なんだろう、ということなんです。

石川善樹(以下、石川) いいですねえ、そういう話大好きです(笑)。僕が考える理解とは、3種類あります。1つ目は、「分解と再構築」。これは還元論的な考え方です。たとえば、「おもしろい映画」とは何だろうと考えたとしましょう。おもしろい映画の要素を分解していき、それらの要素を組み上げて新しい「おもしろい映画」が作れた場合、その人は「おもしろい映画」というものを理解していることになります。

— ふむふむ。

石川 2つ目は、「ビッグピクチャーとディテール」。これは、全体像と微細な部分を理解して、あいだをすっ飛ばすというやり方です。いい例が「洛中洛外図」ですね。洛中洛外図は大きな屏風絵で、全体像と景観や風俗といったディテールが描かれています。違和感がないよう、ディテールとディテールのあいだは雲で埋めてあります。洛中洛外図を見れば、人は「京都ってこういうところなのね」と理解することができるんです。


洛中洛外図

— なるほど。たしかに、マンガや似顔絵ってこういうことですよね。全体の輪郭と特徴的な部分を描けば、あとは省いても何なのか伝わる。

石川 そして3つ目は、「直観」。僕は、これが一番おもしろいと思います。見た瞬間にすべてがわかる、というものです。たとえば、「いい人生とは何か」という問いがあったとします。それを理解するのにまず、分解と再構築で「いい人生の条件」みたいなのを分解して考えるというアプローチが考えられますよね。ビッグピクチャーとディテールで、いい人生の全体像と抑えておくべきポイントを考えるアプローチもあります。直観とは、そういうのをすっ飛ばして、すごくいい人生を送ってきたご老人を目にした瞬間「これがいい人生なんだ……!」とわかるようなものです。この3つが、僕の考える「理解」ですね。

1.分解と再構築
2.ビッグピクチャーとディテール
3.直観

— なるほど。理解というものがスッキリと整理されました。その上で、まだ疑問が残っているんです。それは、僕たちのいう「理解」というのは、果たして本当に理解しているといえるものなのだろうか、ということ。

石川 どういうことですか?

— 将棋プログラムを開発している山本一成さんの本『人工知能はどのようにして「名人」を超えるのか?』に、こういうくだりがあります。それは、昆虫と普通の人とアインシュタインを知能レベルで並べたら、アインシュタイン>普通の人>>>>昆虫、だと考えられてきたけれど、人工知能がもっと進歩したら、人工知能>>>>>アインシュタイン>人間>昆虫、ということになるのではないか、と。


石川 ああー、Googleの囲碁ソフト、アルファ碁同士の対局の棋譜とか、もう完全に人間が見てもわからない、って言いますもんね。

— そうなんです。あれを見ていると、碁というゲームは人間の理解なんかよりも、もっともっと広いものなのだと感じられます。つまり、人間の理解できる範囲って、現実に対してすごく小さいんじゃないかと思うんです。現象そのものを理解できているわけではなく、人間が把握できるレベルに矮小化することを、「理解」と呼んでいるのではないかと。

人は真新しいものに良さを感じられない生き物

石川 おっしゃってること、わかりました。それは、ノベルティ(新奇性)とクオリティ(質)という2つの軸で説明できると思います。ノベルティとクオリティには、常にトレードオフ構造があるんですよ。図にしてみましょう。

石川 これは、人間が感じるノベルティとクオリティについての図です。トレードオフ構造というのは、あちらを立てればこちらが立たず、ということ。つまり、質がよく「いいねえ」と思われるものは、新奇性が乏しい。逆に新しすぎるものは、意味不明で「よくないなあ」と思われてしまうということです。

— あー、これ感覚的にわかりますね。馴染みのあるものほど、わかりやすくていいと思われがちです。逆にまったく新しい挑戦は、一般的に受け入れられにくいですもんね。

石川 このトレードオフ構造っておもしろいんですよ。前回、新しいレシピをデータから創るという話をしましたが、料理もそうなんです。ノベルティは低いがクオリティは高い、つまり右下の領域は食べ慣れたおふくろの味、みたいなものですね。

— アメリカ人にとっての納豆なんかは、左上の方でしょうね。食べ慣れていないからそのおいしさはぜんぜんわからない。

石川 そうですよね。この図で大事なのは、私たち人間の理解は、このトレードオフ構造の中にあるってことなんです。曲線を越えた右上に、広大なる土地がありますよね。ここに人工知能が入っていって、新しい一手を見つけているんだと思います。ある意味、曲線を右上に押し上げているというか。

— それができたらすごくいいと思います。じゃあ、「理解」について石川さんは、練習したり、環境を変えたりすることでレベルを上げていけるという考えなんですね。

石川 そうです。それでも、さっき話していたような現実の本当の全体に対しては比べようもないかもしれませんが、コンピュータの力も借りることでその上限はどんどん突破できると思っていますよ。

— しかし、この話ちょっとハイブロウすぎて、実際のビジネスとかに役立てるのがむずかしいですね(笑)。3種類の理解というのも、説明を聞くとわかりますが、それらを使いこなすなんてそうとう……。

石川 じゃあもう少しノベルティを下げて(笑)、日常で役立つヒント的な話をしましょう。僕が偉大なクリエイターや研究者と会うなかで、見つけた共通点というものがあるんです。

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予防医学研究者であり、論文を読むのが趣味という石川善樹さんは、cakesを運営するピースオブケイクに遊びにくると、最新科学のさまざまなトピックについて熱く語ってくれます。その話があまりにも面白いので、いっそのこと連載にしようということ...もっと読む

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