名刺ゲーム

僕は気づいてしまった。パパが仕事場で「できない奴」であることに。

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。手元にある6枚の名刺と目の前の人間の顔を一致させるべく、熾烈な駆け引きを続ける神田。和也はそんな光景を目にしながら、子どもの頃から尊敬していた「理想の父親」との日々を思い返していく――。昨年、堤真一×岡田将生の出演で好評を博した「名刺ゲーム」を特別掲載!

8 神田和也

—おかえり、パパ。

—和也、まだ起きてたのか、ママは?

—今、お風呂!

—そっか。ママと一緒に入ってこようかな。

 テレビ局で働く人は家にほとんど帰る時間もないというけど、僕のパパはそんなこともなかったんだ。子供の僕がまだ起きているような時間に帰ってきて、ママや僕と話をする時間もあった。仕事をしながら家庭も大事にする。定番の理想のパパ。そんなパパ。ただ、「定番の理想のパパ」と「自慢できるパパ」は違ったりする。

 これは僕が小学校五年の時の話。

 子供はみんなカードを持ってるよね。どんなカードかって? 「かわいい」「かっこいい」「運動神経がいい」「家が金持ち」「勉強ができる」。そういう自分が持っているものを表すカードね。今挙げたのはポジティブなカード。逆もある。「貧乏」「ブス」「デブ」とかがネガティブカード。自分ではどうしようもない、生まれた時からの基本能力のカードもある。持たされている。小学校低学年のうちはそのカードの使い方に気づかない。本能的には気づいているのに、どう使ったらいいかが分からない。だけど、小学校四年生あたりから気づき始めるんだよね。事前に配られているカードによって、クラスの中でのランキングが決まっていくことに。しかもさ、カードの使い方によっては、自分がクラスの中で上に行けたり、下に落ちてしまうことに。

 僕は他の男子に比べると背も低い。前から三番目で体も小さい。これで足でも速ければこの肉体はネガティブカードではないのだけど、そうではなかった。残念。勉強はできる方ではあったよ。けど、あの頃の「勉強」は決して強いカードではないんだよね。

 だけど、そんな僕にも他の生徒が持っていないかなり強いカードがあった。パパがテレビ局で働いているということ。これはとても強いカードだった。収入も普通のサラリーマン家庭よりはいいわけで、「金持ち」のカードも持てていた。でも、それよりも、父親がテレビ局というカードは、無条件にキラキラ輝くプレミアカードだったんだ。

—和也君のパパってテレビ局で働いてるんだってね。

 何度言われても自慢げになれるありがたいカード。テレビという実体の摑めないファンタジーな世界に実際に足を踏み入れている父親の子供なわけだからさ。この一枚のカードだけで十分だった。

 僕の中でもパパは輝いていた。パパの作ってる番組が始まると、ママは「これ、パパの番組よ」と僕に教え込んでいた。母親は息子にも自慢げになる。その自慢げエキスが息子に注入されるわけだから、息子だってそうならざるを得ない。

 パパが作ってるだけで番組がわくわくして見えた。その番組が面白いかどうかはどうでもよかった。僕はパパの作った番組を毎週楽しみにしていた。でもね、低学年のうちは気づけなかった。クラスにできる子とできない子がいるように、テレビ番組の中でもヒットしている番組とヒットしてない番組があるってことに。

 人は疑わない。自分が一度手に入れた幸せは変わらないと信じている。子供の頃ならなおさらでしょ。パパがテレビ局で働いているというカードが弱いカードになるなんて思いもしないわけでさ。四年生になった時にある友達に言われたんだ。

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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