近年、年の差カップルが増えているように思う。私の歴史でいうと、下は8歳差、上は23歳差と付き合った経験がある。ご存知の通り私は非モテ人生だったので(過去記事参照)、何十人、何百人と付き合ったわけではないが、それでも年の差恋愛には向き不向きがあると悟った。私は、年下はNGのタイプである。
年下の彼氏との噛み合わない会話
8歳下の元彼(仮にハチとしておこう)、ハチはいわゆる「年上の女と付き合っている俺マジかっこいい」と粋がっているようなラッパーで(ていうか、ラッパーと付き合っていた過去、かっこ悪い過去、偏見持つ私かっこ悪い、ていうか私マジラップ下手)、自分のステイタスのために私と付き合っていたきらいがあった。
年の差恋愛にはジェネレーションギャップが付きものだ。親子ほど離れてしまえば異世界の住人として、お互いの未知を尊重し合えるのだが、8歳差というのは、まだ成仏しきれていない霞となった己の若さにすがりつこうと、つい対等ぶってしまう。無理に時を共有しようとしても虚しいだけなのに。しかし私を悩ませたのは、むしろ言語感覚の違いだ。
「リコピンって言葉、エッチじゃない?」
とか、ハチは唐突に意味不明なことを切り出す。
(え? 何いきなり。小気味いいアンサーソング返さなきゃダメ?)
「リコピンがエッチだから、トマトは赤いのかもね」
と私。かなり無理。
「そうなると、クエン酸もエッチだよね。リンゴは赤いでしょ」
(青いリンゴもあるけどね。あ、青いトマトもあるか)
「栄養って全部エッチなんだね」
と私。もう無理。
「うん。エッチしようか」
(最初からそう言えよ)
ハチが単なる友達や知り合いなら、上記の会話も笑って済ませられるのだが、いかんせん彼氏となると、私も無駄に緊張したのだ。
年齢差によるすれ違いを補うものは……
ハチは、ラップ業界ではそこそこの知名度があり(本人談)、彼の魅力を再現できないのは私のラップ能力が著しく低いからである。ていうか、そもそも年齢差があると、噛みあっているようで噛みあっていない会話がわりと出てくる。両親や祖父母との会話を思い出してみてほしい。ニュアンスで聞き流している部分が、かなりあることに気づくはずだ。
年齢差がある恋人同士の場合、そういった微妙なニュアンスや、意思のすれ違いを何で補うかというと、「母性」や「父性」なのではないかと思う。
でも母性がない私は、ハチが父性を出したとしても素直に受け取ることができなかった。たとえば、私が仕事で睡眠不足になると、ハチは、
「肌が荒れちゃうよ」
と、心配してくれた。私は、曖昧に頷くことしかできない。
もしかしたらハチは、ここぞとばかりに父性を絞り出してくれたかもしれないのだ。8歳も年上の彼女を、女性扱いではなく女の子扱いできる、些末でいて貴重な瞬間。そんなハチの可愛さと無邪気さを、私は母性で理解し、女の子ぶって甘えればよかった。
「うん、ありがとうね」
表面上で私は笑い、その実、
(そりゃ、私は8歳も年上のババアだから肌荒れするよ。ハチは若いからいいよね)
と拗ねてしまう。女性なら、私のひねくれ具合を理解してくれるだろう。
愛しい若さは、自分の老いを映す残酷な鏡
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