女子大生起業家が隠している秘密

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」
女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強のマーケティング技巧」を持つ西城に弟子入りすることで解決しようとする七海。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第7回。

ホール内から、ベルの音が聞こえてくる。

「ああ、ほら、ベルが鳴った! もう始まっちゃうよ!」

秋山は足をジタバタさせながら言った。

秋山と響妃は、黒服の警備員二人に囲まれ、今なお客席の外、エントランスに閉め出されている。いくら説得しても、受付は納得しなかった。警備員の後ろでは受付の責任者が無線で指揮所と交信しているらしかった。その指揮所がOKを出さないのだ。

「はい、はい。承知しました。このまま待機します」

責任者が言う。

「なんだよ!」

その反応を見て、秋山は、ああ、まったく、とあからさまに舌打ちをする。

「申し訳ございませんが、今回は他のお客様の迷惑になりますので、ご鑑賞いただけません。チケットの払い戻しにつきましては……」

「お金の問題じゃなくて、僕たちはここに入りたいの!」

ふと、言いながら、響妃が妙に静かなことに気づく。

「ねえ、ちょっと、響妃も言ってよ。響妃が言えば、どうにかなるかもしれないじゃん」

「無駄よ」

響妃はあたかも、邪魔をしないで、とでも言うようにそっけなく言う。腕を組んで、何事かを考えているらしい。

「無駄?」

ああ、だから、と響妃は面倒そうに言う。

「これ、報復だから。だから私たちはもう中には入れない」

「報復?」

秋山にはまるで心当たりがなかった。

そう、と響妃は頷く。

「私たちは、今日、もう二度も警備員に取り囲まれている。これで立派な要注意人物リスト入り。でも、私が相川響妃ということを知っていて、テロや事件なんて起こしっこないってわかりつつ、部下にまだ待機を命じているということは、ふざけた真似しやがってと思ってるんでしょうね。人はなめられることに敏感になる生き物だから。それと、私を中には入れたくはないんでしょうね、万が一のことを考えて」

「万が一って、まだ響妃はここで何かが起きるとでも思ってるの?」

それには答えずに、響妃は秋山のほうに改めて顔を近づけ、声を潜めて言う。

「でも、おかしいと思わない?」

「さっきの警備員の数の話? 会場を急に移した話?」

「それもそうだけど、桐生七海よ」

またかよ、と秋山は露骨に嫌な顔をする。

「そうじゃなくて、ちゃんと考えてみて」

「はい、はい」

もうすでに秋山には聞く気がない。

「この前の経済誌で挙げられていた金額が確かなら、桐生七海が経営する会社が一年間に上げた利益は一九億円にもなっている。売上じゃなくて、利益がよ? しかも、粗利益じゃなくて、営業利益」

「わかんないよ。その粗利益と営業利益ってどう違うの?」

「粗利益は、基本的には売上から原価を引いた額。そして、営業利益は、粗利益から家賃とか人件費とかの経費を引いた額だと考えて」

「ってことは、えーと、一九割る一二だから……」

「一ヶ月に一億五〇〇〇万円以上儲かっていることになる」

「それって、毎月宝くじに当たっているようなもんってこと?」

「うん、おかしいよね。気になって調べてみると、固定された社員も少ないし、入ってもすぐに辞める人が多い。レイニー・アンブレラの本社フロアだって広くはない。話題にはなっているけど、組織としては決して大きくはないの。でも、その小さな組織で、イベント運営や警備の業界の営業利益率は高くても一五%程度だから、大まかに計算したとしても、月間の売上高は一〇億円になって、年間にすると一二〇億円もの売上を上げていることになる。小さなイベント運営会社ってそんなに儲かるものかな。それにどうして世界中のアーティストから、彼女の会社にイベント運営の依頼が行くんだろう? グラミー賞を獲ったシンガー・ソングライタ ーがわざわざ日本の小さな会社に依頼するっておかしくない?」

「響妃、さっきから何を言いたいの? もったいぶんないでさ、全部言いなよ」

「あの会社の裏には、何かあるんじゃないかと思って」

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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