Amazonレビューの星1つばっかりをジーっと読んで…

cakesの連載でもお馴染み『臆病な詩人、街へ出る』を上梓した詩人・文月悠光さんと、衝撃のデビュー作『夫のちんぽが入らない』から一年、初エッセイ『ここは、おしまいの地』を上梓したこだまさん。
一年ぶりに再会したおふたりが、人に言えないような秘密に向き合って、書くことについて語り合いました。

「この人は二度と本を出せないでしょうね」

文月悠光(以下、文月) ご無沙汰してます。1年前にcakesで対談して以来ですよね。

こだま もう1年前ですね。あの時は対談というものが初めてだったんです、私の人生で。だからもうガチガチ、何しゃべってるかわかんなくなって。

文月 あのあと、こだまさんの前作『夫のちんぽが入らない』(以下、『夫のちんぽ』)が、あんなにヒットして。この1年でいろいろ変化があったんじゃないですか。

こだま 普段の私は、全然変わらないんですよね。田舎でひっそりと、家族にも黙って執筆しているだけなので。

文月 SNSを見る限り、読者からの反響も大きかったようですが。

こだま 共感して下さる方も多かったけれど、否定的な意見もかなりありました。

文月 うーん……。実は『夫のちんぽ』のAmazonレビューを読んで、複雑な気持ちになってしまって。私はあの本の結末を、過去も含めてその人の現在があるんだから、「人が悩みぬいた末の決断を否定しないで、尊重してほしい」という風に読み取りました。それを読んだはずの、読者の反応の中には、「主人公はもっとこうしたらよかったんじゃないか」といったダメ出しも多くて。すごくジレンマを感じました。

こだま 書いてみて、ですけど、世間は白黒つけたがる人が多いんだなって思いました。でも実は、そういう悪い反応を読むと、落ち込むっていうよりは、もっといいの書くぞってなるんですよね。

文月 えっ、たくましいですね。

こだま 「この人は二度と本を出せないでしょうね」「こんなに自分をあらわにしている人は、一発屋でしょう」みたいな意見も多くて、そういう言葉はすごく効きます(笑)。

文月 ああ〜それは……悔しい(笑)!

こだま そんなのを読むと意地でも出すぞ!って燃えました。次はもっといいのを書こうという気持ちになります。原稿に行き詰ると、Amazonレビューの星1つばっかりをジーっと読んで、よし書こう!って思ったり。

文月 もうバネというより、ガソリン補給ですね(笑)。

抑圧されたことで、欲望が姿を現した

文月 今回『ここは、おしまいの地』を読んで思ったんですけど、こだまさん、出し惜しみしませんよね? 次から次へとおもしろい話が出てくる! 常に全力なんだ。すごい! と思って。

ここは、おしまいの地
『ここは、おしまいの地』

こだま いや、雑誌連載だったので、とにかく字数を埋めて〆切までに出さなきゃって焦って、その都度、その日暮らしみたいな感じで(笑)。

文月 帯のコメントに歌広場淳さんが、「おじいちゃんが事故に逢う場面で爆笑してしまいました」と書いていますよね。常識的に考えたら、笑っちゃいけないことだったり、ちゃんと怒るべきなんじゃないの? っていうところで、なんか笑ってしまう。ある種の滑稽さだったり、ユーモアが全体に満ち満ちていて、とても楽しく読みました。

こだま ああ、よかった。思いつく限りの札を全部出しちゃうから、翌月に必ず頭を抱える。で、「いや、まだあったはず」と絞り出し、集落や家族、病気など身の回りの出来事を書いています。

文月 印象的だったのが、カビや排水の匂いが地獄のようにひどい(笑)「くせえ家」から、いよいよ引っ越すというときに、こういう表現があって。

〈この気持ちは、ひとり暮らしを始めた大学一年の春に似ている。料理も、そして夫との暮らしもやり直したい。丁寧に生きていきたい。
 抑圧されたことで、欲望がはっきりと姿を現した。いま我慢の先に希望が見えた。〉

『ここは、おしまいの地』217Pより

文月 これって象徴的な文章ですよね。多くの人が、地方やある集団の中で抑圧された時代を持っていると思うんですが、こだまさんの場合は、そのスパンがすごく長かったのかなって。だからこそ、本にできるほどの奥行きがあったという。

こだま あ〜。

文月 「人に言いたいけど、言えないことがたくさんある」とも書いているじゃないですか。こだまさんが、今までいろんな「言い出せない」抑圧を受けてきたからこそ、今こうやって文章を書いているのかなって。それがあるからこそ、日記を書いて、ブログを書いて、同人誌を出して、という欲望につながったんじゃないかと思いました。

こだま その通りですね。一定期間、胸の中で発酵させてきたものを吐き出すようにして書いています。

臆病者が何より怖いのは……

こだま 私も『臆病な詩人、街へ出る。』読ませていただいて、すごくおもしろかったです。これまで避けてきたいろいろなことに挑戦してみたくなる本でした。一冊を通して前向きになれました。


『臆病な詩人、街へ出る。』

文月 わ、なんだかすごくうれしいです。自己啓発本ならわかるけど、私の言葉で人が前向きになってくれるっていう想像をなかなかできなくて(笑)。この本で「じゃあ街へ出よう」としみじみ思ってくれる人が一人でもいたらって思うと……うれしい。

こだま やっぱり私も臆病だし、内にこもりがちな人間なので特にそう思いました。文月さん、すごいって思いながら、ずっと読みましたよ。

文月 いやいや、結構人並み以下というか、初詣とか八百屋に行く話もありますけども……。

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入らない」ふたり—文月悠光×こだま対談

こだま /文月悠光

『夫のちんぽが入らない』! 驚きのタイトルを上梓するこだまさん。匿名で執筆活動をするこだまさんと、著書『洗礼ダイアリー』や、cakesの連載『臆病な詩人、街へ出る。』など、エッセイストとしても活躍中の詩人・文月悠光さん。自身の身の上を...もっと読む

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コメント

tipi012011 2冊とも読もう! 3ヶ月前 replyretweetfavorite

bourbonne この対談を読んでじっとしていました☞ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

taizona 「入らない」ふたり――文月悠光×こだま対談 | こだま/文月悠光 | cakes https://t.co/mnNemUoCpT https://t.co/A64A41fGkC 3ヶ月前 replyretweetfavorite

zuiji_zuisho もっと面白い文章書きたいなーって時に臆病な人が羨ましい時もある。なんだかんだいつもヘラヘラしてるから。 3ヶ月前 replyretweetfavorite