歌舞伎の未来に遺すもの

歌舞伎の〈いま〉を知る!
市川海老蔵をとりまく舞台模様を中心に、見るべき役者、人間関係、注目の演目などを解説する歌舞伎読本『海老蔵を見る、歌舞伎を見る』(中川右介・著)。
本書の刊行を記念し、稀代の女形・坂東玉三郎のユニークなポジションを解説したパート「玉三郎スクール」を特別公開します。第5回は、2017年以降の玉三郎スクールについて。

脳裡に残る『刺青奇偶』

2017年も玉三郎は歌舞伎座で新年を始めた。

1月は夜の部に出ただけで、幸四郎の『井伊大老』でお静の方をつとめ、『傾城』を舞った。

お静の方は歌右衛門が得意としていた役で、玉三郎としては1975年に帝国劇場で演じて以来となる。昌子の方は雀右衛門がつとめた。

その後は、数日だけの舞踊公演はあったようだが、本公演に出るのは10月の歌舞伎座までなかった。

だが、その間の8月の納涼歌舞伎では、第一部で七之助、中車、染五郎が出た長谷川伸の『刺青奇偶』を玉三郎が演出した。

この芝居は、2008年4月に玉三郎のお仲、勘三郎の半太郎、仁左衛門の政五郎で上演され、いまも脳裡に残る。

あのときは、これからも何度もこの三人で見ることができるだろうと軽い気持ちで見ていたが、もう二度と見ることができない。

七段目の豪華ダブルキャスト

10月は夜の部に出るだけで、坪内逍遥の『沓手鳥孤城落月』で淀の方をつとめ、最後に舞踊『秋の色種』を舞った。

『沓手鳥孤城落月』は坪内逍遥が書いた新歌舞伎の代表作だが、初演したのは五代目歌右衛門で、以後、成駒屋の家の藝となっていた。1月の北條秀司作『井伊大老』のお静の方も六代目歌右衛門が得意としていたので、この年の玉三郎は、数少ない出演で、二作とも歌右衛門の得意としていた役を自分なりに新解釈して提示したことになる。

『沓手鳥孤城落月』で玉三郎と同座したのは豊臣秀頼の七之助、大野修理亮の松也、饗庭の局の梅枝、千姫の米吉、婢女お松実は常磐木の児太郎で、若手に伝えようという配役の意図が伝わる。

12月の歌舞伎座では、三部制の第三部で中車と長谷川伸作『瞼の母』と、夢枕獏が作った舞踊劇『楊貴妃』に出た。

さらに2018年1月は歌舞伎座には出ず、大阪松竹座に中村壱太郎との舞踊公演をする。

2月には歌舞伎座の高麗屋の三代同時襲名に出て、『仮名手本忠臣蔵』七段目で、仁左衛門の寺岡平右衛門に、お軽をつとめる。この七段目は、最近の歌舞伎座では珍しいダブルキャストとなる。

由良之助は白鸚(九代目幸四郎)が毎日つとめるが、平右衛門は奇数日は仁左衛門、偶数日は海老蔵で、お軽は奇数日は玉三郎、偶数日は菊之助がつとめる。

玉三郎は、25日間通して出るのは体力的に難しい役でも、こうすればまだやれると、アピールしたいのだろう。海老蔵もまた休演日を設けることを主張しているので、このふたりによって実現するダブルキャストだ。熱心なファンとしては2回行かなければならなくなり出費が嵩むが、見応えのある舞台になるはずだ。

「引退はいつも考えている」

2017年11月にNHKで放映された松任谷由実との対談番組で、

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海老蔵を見る、歌舞伎を見る 特別編「玉三郎スクールとは何か」

中川右介

歌舞伎の〈いま〉を知る! 市川海老蔵をとりまく舞台模様を中心に、見るべき役者、人間関係、注目の演目などを解説する歌舞伎読本『海老蔵を見る、歌舞伎を見る』(中川右介・著)。本書の刊行を記念し、稀代の女形・坂東玉三郎のユニークなポジション...もっと読む

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