谷川俊太郎「音や声を回復する言葉遊び」

【第5回】詩というのは、声が先にある。しかし、日本の現代詩は声を失っている。それを回復するために、谷川さんは「言葉遊び」を始めたーー。谷川さんの詩の本質に迫る、貴重なお話が展開されます。(聞き手・ロバート キャンベル)
 ※本インタヴューでは自身が代表作を3点選び、それらを軸にして創作活動の歴史を振り返る。「二十億光年の孤独」(『二十億光年の孤独』1952)、「あなた」(『みみをすます』1982)、「さようなら」(『私』2007)。


音や声を回復する言葉遊び

谷川俊太郎(以下、谷川) さっき「言葉で遊ぶ」と仰いましたけれども、その頃、日本の現代詩があまりにも意味に偏っていて、日本語の持っている豊かな面白い音の世界というものを完全に無視しているというのが気になっていました。

詩というのは、もともと無文字社会の頃からあったわけだから、基本的に声が先にあると思うんです。だけど、日本の現代詩はある面では声を失っているという感じがして、それをどうやって回復しようかと考えて、言葉遊びを始めたんですね。

もともと日本語には、七五調というはっきりとした韻文の形式があります。それで短歌、俳句が非常に盛んなわけです。ただ七五調で書くと、現代詩としてはちょっと時代錯誤的になってしまうんです。

それ以外に言語の音的な要素というと韻しかなくて、脚韻を踏む、あるいは頭韻を踏むということも考えたのですが、日本語の特性として脚韻というのが聞こえて来ないんです。全部母音で終わっているから。

戦後、中村真一郎さんや福永武彦さんがマチネ・ポエティックというのを運動としておやりになって、ソネットでいろんな詩をお書きになっているんです。文字で読めばもちろん伝わってくるんですけれども、その音的な要素というのはすごく丁寧に脚韻が踏んであっても、ピンと来ないというのがあるんです。

その程度の、つまりフランス詩や英詩ぐらいの脚韻の踏み方では、日本語では音が生きない。それでどうすればいいんだろうと考えて、結局、駄洒落とか地口の類の詩になってしまうわけです。それは普通の自由詩を書くのとは全然違って、一種の職人的に言葉を拾い集めて、音が面白い組み合わせになるかどうかを確かめながら作っていく。

ロバート キャンベル(以下、キャンベル) 活字工のように、一つ一つ広げて間に入れていくという作業ですね。

谷川 そうなんです。しかもノンセンスではなくて、ある場面があったり短いストーリーがあったりということです。これも月刊誌で連載したんですが、一つ作るのに本当に1カ月かかっていました。

それは、『ことばあそびうた』と『ことばあそびうた(また)』という2冊にまとめてあるんですけども。これは自分の内面でやるのではなくて、大工さんが木を削ったり、組み合わせたりするのと同じような作業です。このとき、言葉の抵抗感みたいなものを初めて感じて、非常に面白かったんですけどね。

『ことばあそびうた』瀬川康男絵、福音館書店、1973年

『ことばあそびうた また』瀬川康男絵、福音館書店、1981年

キャンベル 『ことばあそびうた』がいま手元にあるんですけれど、たぶん皆さん聞けばすぐわかる、「かっぱ」がありますね。

谷川 それは暗記しています。自分の詩で暗記しているものはほとんどないんだけど、それだけは。

キャンベル ぜひ、「かっぱ」をお聞きください。

谷川

  かっぱ

かっぱかっぱらった
かっぱらっぱかっぱらった
とってちってた

かっぱなっぱかった
かっぱなっぱいっぱかった
かってきってくった

キャンベル 先ほど仰った『落首九十九』という詩集は、60年代の初めに『週刊朝日』に連載していた詩を集めたもので、いまはまとまったものとして読むことができるけれども、私は数年前に図書館にいって、当時の『週刊朝日』を取り出してみたんですね。連載をしていた頃の感覚をリアルタイムで追従して、あの時間の感覚のなかで読んでいくとどうなのかなと思って、10冊ぐらい探し出してみたんです。

谷川 ええ? ありがとうございます。

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高橋源一郎さん、瀬戸内寂聴さん、谷川俊太郎さん、横尾忠則さん…小説家・詩人・美術家の人たちは何を生み出してきたか? 自身が代表作を3作選び、それらを軸として創作活動の歴史を振り返ります。創作の極意、転機となった出来事、これからの話ーー...もっと読む

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