第2回】「アラブの春」への幻滅

旧来政権が続々と倒れた一連の民主化革命。「アラブの春」として喝采を浴びた、その流れの後で新たに生まれた政権は国民にとって本当に「より良い」ものになっているのだろうか? 全4回連載の今回第2回では、そのプロセスにおける民主主義のあり方について――(取材・タカザワケンジ)

──前回、「民主主義」は本当に正しいか、というかなり本質的な問題に触れましたが、民主主義の欠点は、たとえばどんなところにあると思いますか。

重信 アメリカ式の「民主主義」というと、結局は多数決がいちばん重要で、数の政治です。投票で多くの賛成を得た考えが、投票しなかった人や賛成しなかった人たちを支配する。たとえば、アメリカの武器の問題がそうです。1791年に制定された修正憲法第二条に基づいて、個人は武器を持ち「自己防衛」「組織的武装」もできる。背景には南北戦争を経て独立、建国されたばかりという時代の状況もあったと思います。当時の(建国)13州の賛成で成立したものを、現代においてもその必要性の論理を深く意識しないまま、アメリカ国民の多くが賛成している。そして、その結果として右派テロ集団によるオクラホマでの事件(1993年のウェイコ事件、95年の連邦政府ビル爆破事件)などにつながっている。
 100年後の人間が振り返って見たら、「なんて野蛮な国だったんだろう」と思うかもしれないですよね。

 「アラブの春」も似ているところがあって、問題意識を持っていて、良いアイディアを持っている人がいたとしても、多数派にならなければ世の中を変えることはできない。人間はお金や、個人の利益に左右されやすいので、人気があればいい政治かといえばそうとはいえないのが現実だと思います。

──とはいえ、少なくとも国民の意思を吸い上げるシステムは必要ですよね。それに、国民の知る権利も。

重信 そういう意味でもメディアの役割は重要です。正しい情報が広く行き渡らないと、民主主義も機能しないし、どんな政治システムもうまく回らない。少なくとも、いまの『民主主義』政治システムのなかでは、少数の人が問題意識を持つだけでは何も変わらない。できれば、大勢の人が知識を得て、納得するまで話し合ってから決めたことで社会が変わるほうがいいわけですから、そのためのメディアの責任は重大です。後はメディアリテラシーも含めた教育ですよね。

 いまの世の中は、一人ひとりが努力しないと持続的な変化は起こらない。エジプトやチュニジアの例を見るとそう感じますね。一時の怒りで政府を倒しても、社会が良い方向へと変わるとは限らない。

──本書でも触れられていますが、「アラブの春」と言われながらも、政権を倒した国の国民がそれ以前より良い政権を作れているとは言い切れない。

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「アラブの春」の正体』著者・重信メイ特別インタビュー 「アラブの春」の現在

重信メイ

重信メイさんは中東問題、および中東をめぐる報道を専門に活動しているジャーナリストだ。日本赤軍のリーダー、重信房子を母に持ち、パレスチナ人の父との間にレバノン・ベイルートに生まれた彼女は、2001年に日本国籍を取得するまでアラブ社会で暮...もっと読む

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TomoyaMorishita 『アラブの春の正体』 著者・重信メイ特別インタビュー https://t.co/JeezRFzCMb via Cakes 良いアイディアを持っている人がいたとしても、多数派にならなければ世の中を変えることはできない・・・ #Palestine 約5年前 replyretweetfavorite

TomoyaMorishita via Cakes #Palestine #Lebanon 約5年前 replyretweetfavorite

TomoyaMorishita 人間はお金や、個人の利益に左右されやすいので、人気があればいい政治かといえばそうとはいえないのが現実だと思います。via Cakes 約5年前 replyretweetfavorite

ArthurBinbaud 素直だねェ~  ☆問題意識を持っていて、良いアイディアを持っている人がいたとしても、多数派にならなければ世の中を変えることはできない。人間はお金や、個人の利益に左右されやすいので、・・・重信メイ 約5年前 replyretweetfavorite