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美女入門Part16『美女は天下の回りもの』
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私は今、最低の日々をおくっている。
なぜなら、私の人生の中でも最長の「お食事会連続二十八日」という記録をつくったのだ。
毎晩、フレンチ、イタリアン、懐石、フグ、中華と食べ、三日間の京都旅行ではそれこそ朝からご馳走を食べていた。
もうデブになったのが自分でもはっきりとわかる。前に体が倒せないぐらいお腹に肉がついてきた。 もう悲しいなんていうもんじゃない。このところちょっとダイエットがうまくいっていたというのに、あっという間にたっぷりのお肉がついてしまったのだ。
「私って最低の女……」
ヨヨと泣き伏したいような気分。もう洋服を買うどころではない。それどころか最近のものだって入らないのである。しかも私は昨年の秋、すんごい大物を買っていた。
パリのエルメス本店でオーダーした革のジャケットである。ジャーン! 当時の流行に合わせて、ミリタリー調にしてあるが、すっごくカッコいい。実のことを言うと既製品を買おうと試着したところ、胸のところのボタンがはちきれそうになったのである。
「アンタ、案外胸があるんやな……」
一緒に行ってくれた男友だちが、大阪弁のいやらしい口調で言い、私はいささか得意になった。
「そうなのよ、ウエストはぴったりなんだけどさ、胸がいつもきつくてさあ……」
とかなりのホラを吹いた手前、オーダーしなくてはならなくなったのである。
二ヶ月たってパリから届けられたこのジャケットに、アルマーニのノータックパンツを合わせた私を、一目お見せしたかった。あの時が私の華だったかもしれない。今よりずっとマシな体型を維持出来ていたのである。
そう、あれは昨年の秋、女友だちと出かけたプライベートなパリ。おまけに久々のベストセラーが出て、電話で尋ねるたびに増刷がかかり、私はその印税分を買い物につぎ込むという楽しいことをしてのけた。
バーキンなんか二個も買ってしまいました。思えばエルメスのバッグと私とのつき合いは、もう十年以上前からになる。やはりパリの本店でケリーバッグを買ったのが最初だ。だが、すぐに後悔することになる。
まだ若く、おしゃれのレッスンが出来ていない私に、エルメスのケリーはまるっきり似合わなかったのだ。おまけにあのバッグは不便極まりなく、電車の切符を買ったり、タクシー代を払ったりする時にいちいちベルトをはずして開けなくてはならない。私はすぐにわかった。
「そうか、こういうものは運転手つきの車に乗る女性が使うものなのか……。電車に乗ったりする女が持つもんじゃないんだ」
そんなわけで長いことほったらかしにしていたのであるが、その間にすっかり年増になった私は、この三、四年再びケリーを持ったり買うようになった。
高級ブランドがあまり好きではない「アンアン」であるが、エルメスのバッグだけは別のようだ。「いつか持ちたい憧れのバッグ」という特集で、四十五万円のケリーバッグが出てきたのにはびっくりした。 が、私は言いたい。四十五万円のハンドバッグを持つ二十代の女の子って、いったいどんなコなんだ。親がよっぽど金持ちか、そうでなければおじさんに買ってもらったとしか考えられないではないか。