美女入門

別れた男との屈折したやりとりを楽しむ、欲張りな女に私はなりたい。

「美女入門」アンアン連載1000回を記念して、最新刊『美女は天下の回りもの』と、文庫『 美女千里を走る』が、絶賛発売中です! cakesでは、記念すべき第1話から、順次特別連載しています。マリコの名セリフの数々、たっぷりご堪能ください。第9話は、1997年12月12日号「恋の醍醐味は、別れ際にあり。」。「林真理子書店」ほか、全国書店で「特製プレイバック小冊子」も配布中。お見逃しなく。

直近のエッセイを丸ごとお届け

美女入門Part16『美女は天下の回りもの』
文庫『美女千里を走る』も同時発売!

 私はこのところとても忙しい。

 いつも忙しいのであるが、この一ヶ月のハードなことといったら、ちょっと普通ではなかった。私の書いた小説が映画化、テレビ化されるために、地方キャンペーン、各種パブリシティと走りまわっていたのである。おかげでオットはいい顔をしないし、原稿の〆切りもたまっていく。中でもいちばん感じ悪く催促するのがテツオである。

「アンタ……、今日、何曜日だと思ってるワケ。アンタのカレンダー、ちょっと狂ってんじゃないの」

こう低い声で脅した後、ちょっと口調がやわらかくなった。

「あのさ、うちのお袋がさ、『ハヤシさん、本当にお忙しそうね。あなた、ご無理なことをお願いしてるんじゃないでしょうね』なんて言いやがんの」

 私はすっかり感動してしまった。テツオのママには一度だけお目にかかったことがあるが、さすがハンサムな息子を持つだけあって、美人で上品な方であった。あのママが私のことをそんなに心配してくれているとは……。

「そう、あんたのお母さまと私とは、すごくうまくいくはずだったのよ。すごく仲のいい嫁姑になるはずだったのよ。それをひき裂いたのはあんたよッ」

 私は怒鳴って、こう最後に締める。

「あんたがさ、私にまるっきりそういう気持ちを持たないからよッ」

 ヒヒヒッと私のジョークに低く笑うテツオである。

 まあ、テツオとは長いこと“ジャストお友だち”であるから、こういう冗談も通じるのであるが、一般的に困ってしまうのが昔の恋人というやつですね。別に困らないか……。

 別れた彼と、どうしていろんなところで会ってしまうのだろうかと、みんな思っているわけであるが、少しも不思議ではない。なぜなら、未だに共通のお店とか友人というものが存在しているからである。  以前は、そういう時すぐに“まわれ右”をしてみたり、ぎこちない挨拶をかわした後、感傷にふけったりしたものであるが、今ではもうちょっと前向きになっている私である。

 かの渡辺淳一先生は、最近のエッセイでこう書いておられる。男女間に友情というのは、非常に育ちにくい。友だちのまま、男女間のおいしいところを味わおうとする女性が多いが、これはちょっと都合がよ過ぎるというものだ。本当の友情というのは、昔、肉体関係のあった男女に生まれる。もはや恋愛感情はないとしても、本当に相手を思いやる心は芽生えるものだ……といった趣旨だったと思う。

 そう、私も年増になってはじめてわかったのである。

「花は盛りのみ楽しむものではない」

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美女入門

林真理子

ついに1000回を迎えた、アンアン連載「美女入門」。1997年の第1回には、こんな一文があります。「キレイじゃなければ生きていたってつまらない。思えば私の人生は、キレイになりたい、男の人にモテたいという、この2つのことに集約されている...もっと読む

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コメント

smile_nampa 林真理子の文章は今回の連載で初めて読んだけど、すごく面白い! 3ヶ月前 replyretweetfavorite

urihazex11 https://t.co/r0a3hYRyGK 3ヶ月前 replyretweetfavorite

shimadakana 「何もないよりは傷つく感じが好き。何もなくカラッと明るく過ごすより、男の人のことでジメッとしていたい。そのためにはたくさんの男の人が必要で、別れた男性にも総動員をかける」 こういう妄想は萌える。物書きはたいてい妄想番長。... https://t.co/qL5ThxTnry 3ヶ月前 replyretweetfavorite