平野銀渡部銀小平銀。スマイルジャパン初勝利。

勝ちました! オリンピック放送ではじめてアイスホッケーを観て、魅力にのめり込んだという声もたくさん届いています。あと2試合あります。未来のために頑張れ、スマイルジャパン!【小説の展開】男を惑わす瞳を持つゴーリーの加奈。慶應出身アイスホッケー男子に恋焦がれるが、アンと三角関係の兆しアリ。スポーツいちばん、でも恋もしたい。そんな時に事件の影が。

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オリンピック初勝利!未来のために戦おう、スマイルジャパン。(NHKハイライト)

10.スマイルジャパンのゴーリーは妖女

 この日はエキシビションマッチだったので試合開始が早く、夕方の6時からだった。9時に解散することもわかっていたので、私は北海道からはるばるやって来るチームメイトを豊楽へ連れて行く約束をしていた。フォワードで最年長のハナヨさんと20歳になりお酒が飲めると張り切る涼子は苫小牧、デフェンスキャプテンの香織さんは釧路、そして札幌からはこの夜、神のように活躍したゴーリー加奈の4人だ。中でも加奈は私の大の仲良しである。そして加奈は男子から熱い視線を浴びる女なのである。 清楚なたたずまい。長く黒い髪。白い肌はすべすべしている。私服は素朴で、道行く男子を振り返らせるような派手さはない。性格はきまじめで大和撫子。ところがゴーリーのヘルメットをかぶればアスリートを超えて妖女に変身する。防護網の奥に光る艶やかな瞳に、男子は参ってしまうのだ。ソチオリンピックの試合を録画で見たとき、画面にクローズアップされる加奈の眼差しに女子の私の胸さえときめいた。なんて麗しい! わたしにとって最高の形容詞を使いたい。お酒を飲めばため息に熱い色香が交じる。私がオトコだったらケッコンを申し込まずにはいられないだろう。彼女とは札幌で、苫小牧で、東京で、必ず連れ立って出かける。そんな仲だ。9時すぎにリンクの駐車場に出ると、おじいちゃんの専用車であるミツホシのデモネアがドアを開けて待っていた。
「見事な試合でしたね」
 小手鞠さんが言った。
「見ていてくれたの?」
「相談役がおられませんのでね。拝見させていただきました。興奮しましたよ」
 おじいちゃんがいると、
「運転手は車で待機するものだ」
 としか言わない。
「最後は妙な反則もありましたが、狙われるのもエースの勲章。たいしたものです」
「狙われるって、ええ? それ、なんだっけ?」
 ハナヨさんが振り向いた。
「アン、マジ覚えてないの?」
「はて……」
 加奈も大きな瞳を私に向けた。
 ハナヨさんが言った。
「最後のダブルマイナーペナルティよ。あれは何が何でもひどい」
 涼子が言った。
「でも、言ってはなんですが、あれで場内騒然だったじゃないですか。私も興奮しました」
 アドレナリン出っぱなしの試合に、細かいことはあとで思い出すことが多い。私はフェイスオフを思い出した。身長180cm以上ある大男の妙な笑顔。
「ああ、そうだったか……」
ハナヨさんは言った。
「とにかくアンは最高だったよ」
「楽しかった!
「興奮した!」
「それに」
 加奈があこがれの眼差しになっている。
「啓太さん、かっこよかった」
 香織さんと涼子は無言だったが、
「プレイもいちばんだったし、ケンカに割って入るなんて、男らしい」
 ハナヨさんは私と加奈の顔を見比べているが、私は不審だった。
「啓太がどうしたの?」
 ハナヨさんが寄ってきた。
「アン、ほんとに覚えてないの?」
「啓太ですか? ディフェンスで出てましたけど」
ハナヨさんは私の顔を見たが、
「ハッーッ
と息を吐き出しただけであった。
 啓太のことはよく知ってる。私のひとつ歳上の25歳。ニューヨーク慶應高校アイスホッケー部で活躍し、州選抜になったこともあった。知り合ったのはお互いジュニアチームにいた時だ。アメリカでアイスホッケーにのめり込んだので共通項も多く、話やすい友人である。慶應高校ニューヨーク学院はグリニッジからも近いので私も入学を考え、オープンスクールに行ったことがある。私は結局公立の高校からイエール大学に進んだが、啓太は帰国した。慶應大学に入り、アイスホッケー部に入り、インカレで優勝した。それもあってイエローラビッツに誘われ、日本代表のBチームに選ばれたこともある。ハナヨさんは私の前から離れ、加奈をちらっと見たが、もう一度私を見て言った。
「鈍感なやつ」
 何が鈍感?
「早く日本一の中華に連れて行っておくれよ。エネルギー切れてんだから」
「お腹ぺこぺこ」
涼子もお腹を押さえて情けない顔をした。
 小手鞠さんが言った。
「それでは出発いたしましょう」
「はーい」
 4人は試合の興奮冷めやらぬまま、応接間のような高級車に乗り込んだ。


11.事件の影が迫る

 運転手付きの車で練習に来ているって? 不遜な態度じゃないか? スマイルジャパンのメンバーたちは就職斡旋(アスナビ)のおかげで、アルバイト生活から脱出したばかりだ。もちろん思ったが、現実的に考えてもみたのである。社員になったとはいえホッケーはお金がかかる。運営費はほとんどのチームが赤字で、選手は年会費10万円、遠征の度に5万円程度を負担する。防具もひとつ1万円とか、スケート靴は5万円以上する。練習会場を行き来する交通費も痛い。そんな中、豊楽とミツホシ財団のある丸の内ビルは眼と鼻の先、そこにおじいちゃんの専用車が待機している。六瓢家が金持ちというわけではない。おじいちゃんがたまたま、会社から車を付けてもらうような立場なのだ。そして実際、ほとんど使わない。使うとしても昼間だ。早朝や夜は空いている。品川で練習するときくらい、車を使わせてもらえないか。  おそるおそる、運転手さんに頼んでみた。ところがこの小手鞠さんという人、むしろ私たちの送迎を喜んだ。
「スマイルジャパンのお手伝いができるなんて光栄です。必ずや、金メダル穫りましょう」
 おじいちゃんはおでこにしわを深く刻んだが、今はあきらめたようだ。車があれば豊楽で間際まで働ける。そして送迎は加奈の困難も解決することになった。加奈は人気が出すぎてストーカー騒動があったからだ。いま彼女は札幌で大学に通っているが東京出身で、実家は今も二子新地にある。そこを探り当てられてしまった。深夜の帰宅時、玄関で男が待っていた。両親とチームからも警察に相談したが、警察だって万全じゃない。それを知った小手鞠さんが加奈を家まで送り届けることになった。一度は男の襟元を締め上げ、追い返したこともあるという。小手鞠さんは騎士道精神を持つやさしい人なのだ。
「小手鞠がナイトだって。ふふん。有り得ない」
 おじいちゃんは私が小手鞠さんを褒めると、決まって仏頂面をする。
 年寄りはひがみっぽい。気にすることはない。
 しかしこの夜、ちょっとした事件が起こったのである。

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小説「スマイル」。女子アイスホッケー物語

松宮宏

数年前のサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」の歓喜のように、冬季オリンピックで大注目の女子競技があるのを知っていますか? それは「アイスホッケー」です。氷上の格闘技と呼ばれるこのスポーツに、奇跡のメダルはあるのでしょうか? この連...もっと読む

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hatanosatoshi 祝!初勝利。小説のイラストを描かせていただいてます! 2日前 replyretweetfavorite