池崎の会社の同期の飲み会に便乗して横浜まできたユウカ。
「野郎ばっかだよ」と言った池崎の言葉を信じてやってきたユウカだったが、その飲み会には唯一女性の参加者がいた。彼女は池崎の先輩であり、ハルナと名乗っていた。ユウカはノリのよい同期の男性たちと盛り上がっていたが、その女、ハルナ は飲み会の間ずっと池崎のそばを離れなかった。
***************
「私、彼と昔、いろいろあったからねぇ」
新幹線がトンネルに入ったみたいに、プツンと音が途切れた。でも10秒もしたらトンネルを抜けユウカの頭には確信めいたひとつのことだけが浮かんでいた。池崎の年上の元カノって、ハルナさんだ。
でもユウカはそれを口にはせず、「そうですか」とだけ言った。今、そのことをハルナさん は訊いてほしいんだろうけど、ユウカは意地でも訊くつもりはなかった。
ユウカがそのまま化粧室から出ようとすると……
「付き合ってたのよ」
その声は小さな空間にはっきりと響いた。
そのまま出て行くわけにもいかず足を止めると、「誰も知らないんだけどね。和田くんも」訊いてもいないのにハルナさんは続けた。
「そうですか」
「和田くん、あれでいて結構うるさいから。池崎くんと何かあったなんて知ったら、池崎くんに対して何するかわからないから。だからこれは墓場まで持っていくつもり」
墓場まで持っていくほど重要な秘密を、どうしてユウカにはあっさりと告白をしたのだろうか。ユウカはハルナさんの真意が手に取るようにわかっていた。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。