名刺ゲーム

夫を捨てるという罪悪感よりも、風俗で働くことの罪悪感を選んだ。

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。1問目はかつて契約を打ち切った弁当屋の「大木真」を目の前の5人の男女から選ぶこと。神田に正解を言い当てられた大木は、クビにされるまでの幸福な日々、されてからの地獄の日々を思い出す――。テレビ業界を舞台にサラリーマン社会の悲哀を抉り出す衝撃作!

7-2 ハリキリ弁当 代表取締役 大木真

 世の中には自分とは関係ないと思える世界が沢山ある。だけど、関係ないと思っている世界と自分の住む世界は結構近いところにあるって気づけた。

 テレビや雑誌で見た不幸な世界は、海馬がその「負の情報」を勝手に捨ててくれていただけで、本当は薄皮一枚のところにあるんだと。前は街を歩いてて、風俗店を見ても何にも思わなかった。自分と無関係だって、思い込んでいたから。

 今は弁当の仕込みに入る前、早朝から昼前まで週に三回。自分とは関係ないと思っていた世界にいる。面接に行った日、店の看板に「熟女性感」と書いてあって、三十六歳の自分は熟女なんだと改めて知らされました。

 店のことが書かれているSNSサイトを店の仲間から聞いて見てみると、私のことが書かれてあった。「顔は三十点だけど、頑張り屋」と。私の顔が三十点だった以上に、頑張り屋と書かれていたことに小さな喜びを感じてる自分がいたりして。泥の中にも喜びがあるっていうか。

 風俗で働くことを決めた時は、罪悪感の比較で決めるしかなかったな。おそらくこのあともまともに働くことのできない夫と離婚してしまえば、背負うものがだいぶ減る。でも、できない。なぜか? 和孝さんを愛してるから? それもあるかもしれない。でも、一番の理由は違う。

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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