美女入門

男とブランド品の共通点は、人にけなされると魅力が半減すること!

「美女入門」アンアン連載1000回を記念して、シリーズの第1回から特別連載。時間が経ってもまったく色褪せない、マリコの名セリフの数々。たっぷりご堪能ください。第7話は、1997年11月28日号「私って何なのさ」。最新刊『美女は天下の回りもの』と、文庫『 美女千里を走る』が同時発売! 「林真理子書店」ほか、全国書店で「特製プレイバック小冊子」も配布中。お見逃しなく。

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美女入門Part16『美女は天下の回りもの』文庫『美女千里を走る』も同時発売!



 その日私は、ものすごく疲れていた。

 肉体的疲労に嫌なことが重なり、もうぐったりして吐き気がしそう。が、一刻も早く家に帰って原稿を書かなくてはならない。
 が、どうしてこのままで家に帰れるだろうか。私はタクシーの運転手さんに言った。

「駅前のクエスト・ビルで停めてください」

 ここは私がよく行く「ザ・ギンザ」があるところなのだ。何しろ家から歩いて五分という距離にあるため、明日の対談に着ていく服が欲しい時などは、ピューッと走って買いに行くぐらい。
 ここは私の大好きなブランドがいっぱい置いてある。プラダ、ダナ・キャラン、アナ・スイ、マックス・マーラがずらりだ。私はざっとひととおり見る。そしてプラダのコーナーで、とても可愛いジャケットを見つけた。
 プラダというのは、

「いったい誰がこんなものを買うんだ。中学生か!」

 と怒鳴りたいほどサイズが小さく細い。が、そのフラノのジャケットときたら、私のためにあると思うぐらいぴったりじゃないの。これにピンクのシルクのブラウスを合わせたら、今年注目のスクール・ガール風よ。
 さっそくカードで払い、紙袋を持って店を出た。すると、どうしたことであろうか、さっきの吐き気も頭痛もすっかり消えているではないか。

「買い物こそ私の元気の素、買い物こそ私のドリンク剤」

 つくづく思った。

 もう買ってはいけない、ものの置き場所がない、服やバッグなら充分にあるじゃないかと理性は叫んでいても、体って正直なもんすね。まるで水を与えた花のように、いきいきとしてくるのね。
 私は我と我が身がつくづくいとおしくなった。
 私は買い物が大好き。欲しいものを手に入れるためにお金を使う、そしてまたうんと働かなくてはならないという繰り返しである。こんなに買い物をしなければ、もっとましなマンションに住めることであろう。が、私はやっぱり買い物が好きなのさ。はっきり言ってブランドにも目がない。

 私が嫌いなのは、徹底的にブランド品を嫌悪する女である。ブランド品が好きな女・イコール・見栄っぱり、アホ、センスがないという考え方である。
 私もそりゃあ、キンキラキンのイタリアものとか、悪ふざけとしか思えないような頭文字入りのパンツ、デザイナーのサインを見せびらかしているベルトや傘なんかは大嫌いである。が、プラダのバッグの可愛らしさや、ジル・スチュワートのワンピースの素敵さには文句のつけようがないではないか。

 ブランド品にもいいブランド品と悪いブランド品とがある。私のいいブランド品の基準の第一に挙がるのは、マークが小さいことだ。目立つマークほど下品なものはない。さりげなく小さく主張しているものを私は選ぶ。
 そして次は、矛盾するようであるが、マークこそ小さいものの、そのブランドとわかる特徴を持っていることね。
 いちいち、

「これさ、どうってことなく見えるけどドルガバなのよ、ドルガバ、ドルガバ」

 と言わなくてはならないのは、こちらの方もつらい。その点エルメスのケリーバッグなどはまことに理想的である。
 昨年のことだ。私はプラダのショップで、ずっと長いこと考え込んだ。白いバッグを買おうか買うまいか、私にしては珍しく本当に真剣に悩んだのだ。そのバッグは透きとおる白い生地に、革でつくった同色の造花がついている。それはそれはかわゆい。が、値段がかわゆくない。七万円もするのだ。が、私は思い切って買いました。この値段のことは、他人に自慢するにはあまりにも嫌味。それで夫の前で見せびらかした。

「ね、ね、これ見てよ。プラダの新作で七万円もしたのよ」

「けっ」

 夫は言った。

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1997年にアンアンに掲載された、「美女入門」第1〜3話が読める小冊子データをアマゾンで配信中。

この連載について

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美女入門

林真理子

ついに1000回を迎えた、アンアン連載「美女入門」。1997年の第1回には、こんな一文があります。「キレイじゃなければ生きていたってつまらない。思えば私の人生は、キレイになりたい、男の人にモテたいという、この2つのことに集約されている...もっと読む

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コメント

konpyu おもろい 6ヶ月前 replyretweetfavorite

e___green ブランド品でなくても、なんかわかる。 https://t.co/ZvVeNwPmpF 6ヶ月前 replyretweetfavorite

chitosenagao あいかわらず鋭い。笑。林真理子は小説よりエッセイの方が個人的には好き。→ 6ヶ月前 replyretweetfavorite

thinktink_jp "ブランド品にもいいブランド品と悪いブランド品とがある。私のいいブランド品の基準の第一に挙がるのは、マークが小さいことだ。目立..." https://t.co/bt2lFCRqHQ https://t.co/G4NrTh8Ybd #drip_app 6ヶ月前 replyretweetfavorite