将来の企業の価値はこうして導き出す!

「会社の値段」の講義の途中で中座する女子高生社長。すると彼女を親代わりに育ててきた経理の御園が口を開く。「石島さん、あなたはもしかして…?」石島と女子高生社長の父、森下との関係がついに明らかに―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、出版社立て直しに挑む。ビジネス教養が一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第26回!

お前は誰だ?

「あの美鈴ちゃんが、こんなに熱心にファイナンスを学んでいるとは驚きました」

2人のやりとりをずっと聞いていた御園は、石島に率直な感想を述べた。

その表情は社長を支える経営幹部としてのそれではなく、親代わりとしてのやさしさがにじんでいた。

「最近は、すっかり女子高生ではなく、経営者の顔になってきましたね」

「美鈴ちゃんの父親も猪突猛進のところがありました」と遠い目をする御園。

「血は争えませんね」

「それにしても、石島さんの説明は上手ですね。さすが、ベストセラー作家だ」

「えっ?」

石島の顔がわずかにゆがんだ。

「ペンネーム、榊原公一ですよね?」

御園は石島の目をまっすぐ見据えた。

「やはりバレていましたか……」石島は観念した様子だった。「その節は、御社には大変お世話になりました」

「もう10年も前になりますか。榊原のペンネームでファイナンスの入門書を書いていただいたのは」

「当時は一般メーカーの財務部に勤めていましたから、ペンネームで処女作を執筆させていただきました。あの頃はまだ、ファイナンスの理論は一部の専門家にしか注目されていなかったので、『ファイナンスの本を書いてみないか』と先代の森下社長から依頼を受けたのがお付き合いの始まりでした」

「その本がスマッシュヒットしたのをきっかけに、他の出版社でも会計やファイナンスの本を執筆している、という話は聞いていました」

「はい、その後、独立してファイナンスの理論にもとづいた企業コンサルティングをしたり、ベンチャー企業の経営に携わったりしてきました。会社を辞めて独り立ちをできたのも、私に執筆をすすめてくださった森下社長のおかげです」

「ところが、突然、表舞台から姿を消した……」

「ええ。実は大きな病をわずらいまして……。今はリハビリもかねて、昔からやってみたかった喫茶店を経営しているという次第です。幸いなことに、以前経営に携わっていたベンチャー企業が上場を果たして、まとまった資金も入ってきたものですから」

「そうでしたか、それは大変でしたね。実は、美鈴社長がファイナンスの理論を喫茶店のオーナーから学んでいるという話を聞いて、うちの早瀬や田之上の情報をもとにオーナーがどんな人物か探っていたんです。そうしたら、『黒髪のオールバックに、金色の丸いフレームの眼鏡、まるでスナイパーのようだ』と聞いて、すぐに榊原さんではないかと勘が働きました。風貌はまったく10年前と変わっていませんね」

「スナイパーみたいですか……」

石島は苦笑いを浮かべた。

「先代の森下とは、あれからもずっと付き合いがあったんですか?」御園がたずねた。

「一度、私が入院しているとき森下社長が病院にお見舞いに来てくださったのですが、そのとき、森下社長に頼まれたんです。『新しい本を書いてほしい。そして、美鈴にもいつかファイナンスを教えてやってくれないか』と。森下社長は、いずれ美鈴さんが森下書房の社長になることを予想していたのかもしれません。ただ、高校に通いながら社長をするとまでは予測していなかったと思いますが」

「まったくです」


2人が顔を見合わせて笑っていると、すっきりした表情を浮かべて美鈴が戻ってきた。

「何を2人でこそこそ話しているの?」

「世間話ですよ」御園は答えた。

美鈴はいぶかしげな面持ちだったが「じゃあ、石島さん、続きをよろしく」といって席についた。

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女子高生社長、ファイナンスを学ぶ

石野雄一

小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む

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