本の印税はいくら?売れても売れなくても変わらないのはなぜ?

リアルオプション、サンクコスト…ファイナンス的な思考法を駆使する女子高生社長と編集部は着実に部数とキャッシュの見込みを積み上げていく。そこへ!あのベストセラー作家から驚きの報せが届いたのだった―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、出版社立て直しに挑む。ビジネス教養が一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第23回!

うれしい報せ

2週間後、森下書房の会議室。美鈴以下、幹部が顔をそろえていた。

この席で美鈴にとってうれしい報告が2つあった。

ひとつは、営業部長の早瀬から。

帯を巻き直すなどして再販促をかけていた『くずし字解読入門』がプチブレーク中だという。3000部の重版をかけて、歴史書コーナーに並べてもらえるよう全国の書店に猛プッシュをかけたところ、歴史好きの読者の注目を集めて、確実に売れているという。

しかも、全国ネットの報道番組で歴史ブームの事例のひとつとして、『くずし字解読入門』の著者が取材を受け、本も紹介されることになり、さらに1万部の大型重版も決まった。

「今週の木曜日が放送日ね。みんなで集まって一緒に見ようよ!」

美鈴の声も弾んだ。

「この分だとロングセラーになって、さらに売り伸ばしができそうですね」

営業部長の早瀬も満面の笑みだ。

こうした売れ行き好調のロングセラーが生まれる中、同時に新刊の部数を抑えて、こまめに重版をかけるという方針も徹底していた。そのかいあって、少しずつ資金繰りを改善することに成功し、経理財務担当の御園も、どことなく表情がやわらかい。

もうひとつのうれしい報告は、編集長の田之上からだった。

企画会議で甲本が提案した『中学生でもわかる哲学教室』のマンガ版の企画を、まずは電子書籍で発売してみるつもりだという。

「リアル・オプションでしたっけ? 甲本くんが珍しく理論的に説明するので、反論の余地がありませんでした。美鈴社長、よろしいですね?」

田之上は、美鈴と石島の入れ知恵であることをすでに見透かしていたようだ。かすかに笑みを浮かべて美鈴に同意を求めた。

「いいと思う。甲本さん、しっかり説明できたんだ?」

「ところどころメモを見ながらでしたけど」と田之上。

「ありがとう。田之上さん。ファイナンス的に考えても正しい選択だからきっと大丈夫」

そういって、美鈴は笑顔を見せた。早瀬は状況を理解できずに、美鈴と田之上を交互にキョロキョロと見るばかりだった。

会議を終えようとしていたとき、美鈴のスマートフォンに一件のメッセージが届いた。

「あっ、三ちゃんからだ」

美鈴はスマートフォンを操作すると、「えっ」と小さな声をもらした。

「どうしました?」と早瀬。

「えっ!」

美鈴の声はさらに大きくなり、スマートフォンの画面を操作する指の動きが一段と激しくなった。

「えええっ!!」

美鈴はとうとう悲鳴にも近い声をあげた。

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石野雄一

小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む

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marekingu #スマートニュース 6ヶ月前 replyretweetfavorite