宇宙を目指して海を渡る

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!
人気コミック『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕がひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕の書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。


一九四五年四月三一日、ヒトラーがベルリンの地下壕で自殺した。翌朝、フォン・ブラウンたちが避難していたアルプス山中のスキー場のホテルから、弟のマグナス・フォン・ブラウンが自転車に乗って山道を南に向かった。そこにアメリカ軍がいるという情報を手にしたからだった。北西からはフランス軍が迫っていた。フランス軍に捕まる前にアメリカ軍に接触するには、こちらから行動を起こすしかない。

気を揉んで待つこと数時間。マグナスはアメリカ軍の通行許可証を手に、心配する仲間が待つホテルへ自転車をこいで帰ってきた。喜ぶのもつかの間、フォン・ブラウンを含む七人の技術者たちが、車に分乗して南へ向かった。

フォン・ブラウンは戦犯になってもおかしくない立場なのに、アメリカ軍は彼らをスクランブル・エッグ、白いパンとコーヒーでもてなした。フォン・ブラウンは驚かなかった。彼はこう回想している。「私たちはV2を持っていた。彼らは持っていなかった。彼らがV2について知りたいと思うのは当然だろう。」

フォン・ブラウンは得意のセールスマン・シップを発揮し、ロケットの可能性をアメリカ軍に売り込んだ。来るべきソ連との戦争においてロケットは強力な武器になるだろうこと。V2は発展途上にすぎず、大西洋をたった四十分で飛び越えて乗客や爆弾を運ぶロケットを作ることができること。多段ロケットを使えば地球周回軌道に宇宙船を乗せられること。宇宙ステーションを建設して物理や天文学の研究をできること。そして未来には月や他の惑星にさえも行けること……。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

コルク

この連載について

初回を読む
宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

小野雅裕

銀河系には約1000億個もの惑星が存在すると言われています。そのうち人類が歩いた惑星は地球のただひとつ。無人探査機が近くを通り過ぎただけのものを含めても、8個しかありません。人類の宇宙への旅は、まだ始まったばかりなのです…。 NASA...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません