美女入門

オープンカフェで困るのは、前を通るときか、席を選ぶときか?

「美女入門」アンアン連載1000回を記念して、シリーズの第1回から特別連載。時間が経ってもまったく色褪せない、マリコの名セリフの数々。たっぷりご堪能ください。第6話は、1997年11月21日号「オープンカフェの憂鬱」。最新刊『美女は天下の回りもの』と、文庫『美女千里を走る』が同時発売! 「林真理子書店」ほか、全国書店で「特製プレイバック小冊子」も配布中。お見逃しなく。

 表参道に初めてオープンカフェが出来た時、私はとてもイヤアな気分がしたものである。

 私は歩くのがあまりうまくない。小股でちょこちょこ進むので「ペンギン歩き」と後ろ指をさされたことさえある。おまけに出っ張り気味のお腹を隠そうと前かがみにもなる。
 こんな私が、人がいっぱい座っているカフェの前を通るなんて、まるでいい恥さらしではないか。見せ物みたいだ。

 私は当時、青山にあるエステへ歩いて通っていた。帰り道、いったん青山通りの角を原宿の方に右に曲がるのであるが、新しく出来たオープンカフェを避けるために信号を渡る。右側ではなく、左側を歩くようにしたのである。そして向こう側のオープンカフェに座っている人たちに対し、イーッと軽くにらんだ。
 本人たちはどう思っているかわからないが、真ん前のテーブルに陣どっている人たちはとてもえらそうに見える。いかにもけだる気に煙草を吸ったり、お喋りをしているのだ。心なしかキレイな女の子が多いような気がする。

「何の権利があって、そんなにえらそうに道行く人を見るのよ、本当に感じが悪いったらありゃしない」

 ところが右側のオープンカフェが大繁盛したせいで、今度は向かいの左側に同じような店が出来た。おかげで私はとても忙しくなったのである。まるであみだクジの線のように、信号を渡り、道を横切り、オープンカフェの前を通らないようにするのに知恵を使った。
 やがて左側のオープンカフェは三つになり、ついに私は観念したのである。

「見るなら見ろ」

 と私は胸とお腹を張り、前を横切る。私はご存知のとおり、自意識過剰のヒトだ。が、オープンカフェの前を通る時、ヒトは誰でも自意識過剰になるのではないだろうか。

 そして一年もたたないうちに、オープンカフェは表参道ばかりでなく、明治通りの方にも大発生した。  東京に住んでいない方のために説明すると、表参道はご存知のとおりケヤキ並木が続く、広く綺麗な道である。しかし明治通りはぐっと狭く、わりと殺風景な通りだ。それなのにここにやたらオープンカフェが出来たのである。
 特にパレ・フランセの一階にある「オー・バカナル」ときたらすごい。このあいだ「ブルータス」が行なったアンケートによると、「在日フランス人がいちばん好きなカフェ」の第一位に選ばれていた。私は家から近いので、ここを利用することが多い。ここは「在席外国人比率」が東京でいちばん高いところだ。金髪や黒人のカッコいい人たちが外のテーブルに座っている。知り合いが来ると、チュッチュッ抱きついたりする。まるでパリの街角にいるみたいだ。このあいだはミナコ・サイトウの本物が、ここに座っているのを目撃した。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

いけないことは、楽しいこと! 旬のマリコの最新情報満載。

この連載について

初回を読む
美女入門

林真理子

ついに1000回を迎えた、アンアン連載「美女入門」。1997年の第1回には、こんな一文があります。「キレイじゃなければ生きていたってつまらない。思えば私の人生は、キレイになりたい、男の人にモテたいという、この2つのことに集約されている...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

showgo https://t.co/seSLLG5PoZ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

kingmayummy 20年前のエッセイ「三宿というのは、最新の東京の盛り場だ」いろいろしみじみする。> 3ヶ月前 replyretweetfavorite