脅威を脅威と感じると人は解消したくなる

広告は社会の鏡、自分の鏡です。どんなフレーズに惹かれるか、どんな表現に反感をもつのか、そこから新たな発見があるかもしれません。今回は、かつて人々を恐れさせた、ハリトシスという「病気」を扱った広告の話です。

ハリトシスということばは、きっとなじみがないと思います。ハリトシス(halitosis)とは、悪臭呼気、つまり口臭のことを指すことばです。このことばは、1920年代のアメリカで、リステリンの広告で盛んに使われた「病気」の名前です。

このリステリンの広告は、ちょっと凝った内容でした。きれいな若い女性が、物憂げに鏡に映った自分を見つめるイラストが描かれています。そしてそこには、「彼女は、友達の花添え介添人にはなっても、自分は花嫁にはなれない」と書いてあるのです。なぜでしょう? 詳しい話は、細かい字で説明しています。それを読むと、この女性、生まれ育ちもよく、教育も受けており、美しく、なにひとつ欠点がないのに、幸せではないのです(昔の時代の話なので「女の幸せは結婚か?」問題は、少し脇に置いておきましょう)。なぜか? それは彼女がハリトシスだからです。口が臭いから、結婚できないのです。

このキャンペーンは、とても大規模なもので、いろいろなバージョンがありました。例えば、主人公が名門大学(アイビーリーグ)出のイケメンだったりします。しかしハリトシスという「病気」のせいで、世間で成功できない、という不幸な物語が描かれているのです。

リステリンのキャンペーンは、大成功を収め、巨額の売上が実現したのみならず、アメリカ人が口臭を気にするきっかけとなったと、後世の歴史家は分析しています。

臭いを発するがゆえに、恥をかいたり、失敗したりするという話、どこかで聞いたことがありますよね。この連載でも取り上げた「加齢臭」がそうです。加齢臭もハリトシスも避けるべき脅威です。ただし、この脅威はどうにもならない手に負えない問題ではありません。なんらかの解決策が提供されているということがポイントです。

リステリンの広告の説明では、続けてこのようなことを言っています。

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松井剛

何気なく使っているマーケティング用語。そのことばの裏には、あなたのビジネス、さらには世の中の見方を変える新たな視点が隠れています。一橋大学経営管理研究科・松井教授が、キーワードをゆったりと、しかし的確に解説するこの連載。他人の成功体験...もっと読む

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コメント

michael_shinshu 日本では昨秋さんざん体臭の 6ヶ月前 replyretweetfavorite

ux_market 恐怖や煽り系のアピール手法です。 人の不安を購買に結びつける種類のマーケです。 6ヶ月前 replyretweetfavorite

matsu_take 今回は、ハリトシスという病気の話です。 https://t.co/gcrZKSJAMD 6ヶ月前 replyretweetfavorite