日本の大学ランキングはなぜ上がらないか

現役官僚の滞英日記』の刊行を記念した特別連載、今回のテーマは「大学ランキング」。東大が世界のランキングで順位を落とすなか、イギリスの大学はいつも上位をキープしています。ロンドンのLSEの修士課程を終え、オックスフォード大学の修士課程へ進むことになった橘さんは、イギリスの教育と英語の関係について思いを巡らせます。

東大がランクを落とすなか、どうしてイギリスは大学ランキング上位を維持できるのか

 さて、世界の大学ランキングというのは各種あるのですが、最も影響力があるとされるのが、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)です。先日このTHEの最新版が発表され、オックスフォード大学は2位にランクインしています*1。日本では東大がアジア最高位から落ちた(シンガポール国立大学26位、北京大学42位に対して東京大学は43位)と全国紙などでも報道され、みなさまの記憶にも新しいのではないかと思います*2

 さて、なぜ東大がランキングを落とし、オックスフォードなど英米の一流大学が高位を維持するのでしょうか。日本でも、ノーベル賞受賞ニュース、大学研究費を確保するべきという文脈とも関連付けられつつ、多くの議論が提出されていると思います。

 そもそもTHEの評価基準ではTeaching(教育)、Resarch(研究)、Citation(引用)がそれぞれ配点の30%を占めています。東大はTeachingとResarchではトップ10%に入る80点台を維持しているのですが、Citationはその水準に届いておらず、さらに今年は60.9と、昨年の74.7から大きくスコアを落としています。このため、東大はじめ日本の大学は、世界中で引用されるような質の高い研究成果をもっと出さなければならないという議論が提起されることになるわけです*3

 もちろん、このランキングのあり方自体に疑問を寄せることは可能だと思います。たとえば、蓮實重彦元東大総長は、「質の評価を数で行うというのは、哲学的な誤りであります。(中略)社会科学や人文科学の領域では、何語で書かれた論文でも優れたものは翻訳されるという慣行がまだ生きていますから、英語論文の被引用率の国際比較といったことは理系ほど重視されてはいませんが、わたくし自身の経験からいっても、被引用率に限れば、文系においても国際的な言語で書くことの優位は避けられないというのが現状です。ただ、そのとき起こるのは、同じ傾向の研究者たちによる相互引用という醜い互助組織の成立にほかなりません」と批判しています*4。蓮實氏らしいと言えばらしい、僕が知るかぎりでは最も痛烈な世界大学ランキング批判の言葉です。世界大学ランキングが英語偏重であることを批判する英語の学術論文もあります*5

 なお、今回東大をはじめとして日本の大学のランキングが下がったのは、おそらくTHEが引用数を勘定するデータソースにおいて変更があったことが大きいと思われます。これまでは「英語で発表された論文数の影響力を調節するため」Thomson Reutersをメインのデータソースとして採用していたところ、「より国際的な比較に供するよう」Elsevier’s Scopusもデータベースに加えられた(ウェブ内には、こちらに「変更した」と読める箇所もあり)とのことです。それぞれどのようなデータベースなのか、僕は十分に認識できていませんけれど、今年のTHEでは一層英語論文の引用数が重視される基準になったため、さらにランキングを下げたという推測は成り立つと思われます*6

notes
*1 World University Rankings 2016 | Times Higher Education (THE)
*2 たとえば、「 東大、 アジア 首位 から 転落   英誌 の 大学 ランキング」( 朝日新聞 2 0 1 5 年 10 月 2 日) など。
*3 たとえば「 2 つの 世界大学 ランキング   東大 の 敗因 は? - NEWS SALT( ニュースソルト)」 など。
*4「 平成 10 年度入学式 における 蓮實重彦総長の式辞
*5 https://www.newssalt.com/3048
*6 Times Higher Education の 採点基準 はこちら。 World University Rankings 2015-2016 methodology | Times Higher Education (THE)

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現役官僚の滞英日記──EU離脱にも揺るがない、英国エリートたちの生存戦略

橘 宏樹

欧州最古の名門総合大学「オックスフォード」、英語圏最高峰の社会科学研究機関「LSE」の両校に留学した若手官僚が英国社会のエートスをリアルタイムに分析。大英帝国が没落してなお、国際的地位と持続的成長を保ち続けるイギリスに “課題先進国"...もっと読む

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コメント

dw3w4at 日本人著者の各論文の英語がOxbridgeな英語ではないから引用点数が上がらない(その評価方法自体の良し悪しは別として)という説 5日前 replyretweetfavorite

wackosato ダウントンアビーでも確かに米英語と違う表現がそこかしこありそこが面白い一方で、遠回しやなぁとかちょっと鼻につく感じと双方ある(笑) 12日前 replyretweetfavorite

utgwngs そうなのか、、興味深い内容。。 そして、丁寧で密度のある橘さんの文章でこの内容を読んだ私は、きれいな日本語をきちんと駆使していこうと思ったのでした。 13日前 replyretweetfavorite

youcanmakeit42 https://t.co/4vviBaGWc9 13日前 replyretweetfavorite