初心者には優しくない、ロンドンの地下鉄・バスの交通事情

現役官僚の滞英日記』の刊行を記念した特別連載、今回はロンドンの地下鉄とバスの交通事情を紹介します。日本では当たり前の電車やバスの親切な車内放送はロンドンにはありません。橘さんはユーザー目線の工夫は日本の方が優れているとしたうえで、表示をしないことが人々の行動をコントロールする「ナッジ」なのかもしれないと考えます。

ロンドンっ子の地下鉄に対する感覚

 チューブ(地下鉄)の駅構内は、場所によっては非常に古く、苔むすレンガや石造りのローマ時代の水道や坑道のような構造物に改修を重ねてギリギリ使っていたりもします。携帯電話の電波はたいてい入りません。また、通路やエレベーターは乗客と降客で出入口が異なるなど、動線がはっきり分けられています。間違えて戻ったりする際はなかなか大変ですが、客同士がぶつかったりしにくく、スムーズで良いかもしれません。

 エスカレーターやエレベーターはすべての駅にあるというわけではなく、あったとしてもよく故障して止まっています。ホームに通じる階段—たいてい狭い螺旋階段です—には、「176段あります」などと段数が明示してあります。ほぼすべての駅で、どこかで必ず階段を使わなければホームまで降りられませんので、ベビーカーや大きな荷物を抱えた旅行者、お年寄りや障害者にはあまり良い環境とはいえません。ですがベビーカーや大きな荷物を抱えたご婦人には、必ず誰かが手を貸してくれます。

 また、構内では大道芸人がパフォーマンスをしています。よくあるギターの弾き語りのみならず、年配の女性がオペラを歌っているのを見かけたこともあります。時には車内でバイオリンを弾いている人もいます。

 地下鉄車内は広告は貼られているものの、日本のような「吊り」広告がありません。なぜなら天井が低いからです。車内が狭いことで有名な東京の都営大江戸線よりもさらに圧迫感があるかもしれません。ロンドンには体格のいい人が多く、ビジネスマンでもよくリュックを背負っていたりするのに、車両の幅も座席の幅も、日本の電車に比べると狭いです。

 また、駅構内で壁に貼られている地下鉄路線図とにらめっこしている人をよく見かけます。「今いる駅はココ」と強調して明示されていないので、旅行客はまず今いる駅を探さなければいけません。東京の地下鉄ではホームの柱に「出口に近い乗車位置がだいたい何両目にあるか」を示す掲示があったりしますが、ロンドンの地下鉄はそこまでしてくれません。僕はあの掲示をけっこう便利だと思っていたので、ユーザー目線の工夫では日本の方が優れていると感じます。とはいえ、合理的な乗車位置の情報が明らかになったら、たいていホームに出る階段は入口も出口もそれぞれ一箇所であり、混雑を誘発してしまうことになりそうなので、表示しないこと自体が「ナッジ*」なのかもしれません。

*ナッジ(nudge)…元は人を軽くひじで突くことを表す英単語。ちょっとしたきっかけて人々に特定の行動を促す手法を指す。

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現役官僚の滞英日記──EU離脱にも揺るがない、英国エリートたちの生存戦略

橘 宏樹

欧州最古の名門総合大学「オックスフォード」、英語圏最高峰の社会科学研究機関「LSE」の両校に留学した若手官僚が英国社会のエートスをリアルタイムに分析。大英帝国が没落してなお、国際的地位と持続的成長を保ち続けるイギリスに “課題先進国"...もっと読む

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コメント

TuesdaySince "ロンドンの地下鉄・バスの交通事情|橘 宏樹 @H__Tachibana | 6ヶ月前 replyretweetfavorite

W7Zyc 非鉄の方がロ… https://t.co/Wk75LIdRAS 6ヶ月前 replyretweetfavorite

cbwinwin ナッジ的な政策は社会の効率や個人の満足を向上させる 6ヶ月前 replyretweetfavorite

juni_ca_wa_ii このシリーズとっても興味深いのよねー。 6ヶ月前 replyretweetfavorite