料理番組から見えてくるイギリスの食事情
さて、日本人にはご飯が美味しくないことで有名なイギリスですが、驚くべきことに料理番組を意外に多く見かけます。旅番組とセットになっていることが多い印象があり、旅先の民家やレストランの調理風景をレポーターが実況する形式だったりします。ちょうど「くいしん坊!万才」的な感じでしょうか。肉を網で焼くとか、生地に何か包んでオーブンに突っ込むパイのような料理が多く、調理過程も乱暴というかなんというか野性味溢れるものが多いです。
もちろん、スタジオのキッチンで実際に料理を作ってみせるタイプの料理番組・コーナーもかなりあります。カメラワークなどは、真上から撮ったり背後から撮ったりと、画的には日本ではあまり見かけないスタイリッシュなスピード感・テンポ感があったりもします。
しかし、画面の隅などに「みりん:大さじ2」などと、材料や目安のリストが表示されるタイプのものを僕は見たことがありません。あくまで調理風景がエンタメであり、作り方を本気で覚えたいと思っている視聴者をあまり想定していないのかもしれません。というかそれ以前に、複雑な料理がほとんど出てきません。基本的に、軽快におしゃべりをしながら、切り刻んだ肉と野菜のすべてをボールに入れて塩と油で揉み込みます。その際、ハーブは必ず何かパラパラと入れます。香り(flavor)は大事なようです。だいたい、このハーブでどのような香りがつくかというところで、ひとくさり強調があり「うーん、いい香りだ」と恍惚するところで、作業のリズム的にも一息つく感じです。
あとは揉み込んだものをどうにかするだけ。火を通す行程を2回以上経る、たとえば「先ほど湯通ししておいたものを◯◯して、最後に××と一緒に炒めます」とか「漬け込んでおいたものをここで投入します」というような、同時進行のマネジメントや段取りがあるような料理はまだ見かけていません。
そして、最大のポイントですが、ダシ(という概念)が存在しません。周囲でも日本食に詳しい人が旨み(Umami)という英単語を知っているという程度です。ゆえに、料理番組でもダシは登場しません。でもスーパーには、“gravy”(肉汁の意)といって、焼いた肉にかけるソースを作るときに使うコンソメの顆粒のようなものが売っており、僕は自炊するとき、これをダシ的に使っています。ちなみに旧英領植民地のナイジェリアでは日本の「味の素」がほぼ全国民に普及しているそうで、ナイジェリア人は白い粉を見たら、およそAJINOMOTOだと思うそうです。
料理番組の内容に話を戻しましょう。だいたい恰幅のいい男性ゲストがダイニングテーブルに座っていたり横に立っていたりして、説明しながら調理する人の話し相手になっています。英国人の場合、いらぬことばかり言って(料理というか食事ということにほとんど関心がないのに、関心がある体を徹底して、皮肉なのかお世辞なのかわからないようなことを言い放ち続ける、実に英国人男性的なトークです)、料理の完成を待ちます。
できあがると、待ちくたびれたのか話し疲れたのか関心のなさを取り繕うことに疲れたのか、シンプルに「美味しい」と言いながら食べます。話し相手の男性がフランス系など欧州系の男性の場合は、日本の料理番組のレポーターのようにいろいろと味わいを述べます。ダシも入ってないのに……。
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