「二十億光年の孤独」——宇宙のなかの自分の座標
ロバート キャンベル(以下、キャンベル) 今日、3作を選んでくださったんですが、お父様が三好さんに渡したノートのなかにあったという「二十億光年の孤独」という詩を、ぜひ朗読していただきたいと思います。
谷川俊太郎(以下、谷川) この時代はまだ、宇宙の大きさが一三七億光年ではなくて、二十億光年だったんです。僕はそんなに天文学に興味があったわけではないんだけど、その程度の知識はあって。それから、もしかすると火星に知的生物がいるかもしれないという、ちょっと面白い時代だったんです。そういうことを踏まえて書いた詩です。
二十億光年の孤独
人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或はネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨んでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
キャンベル この詩は代表作としてよく知られています。
谷川 いま宇宙に関する知識というのは、この頃と比べて格段に違ってきていますね。それでも、この詩集をいまだに増刷してくれるのが不思議です。科学的知識と詩というのは、もちろんどこかでつながっているんだけど、違うものだなあと思います。
キャンベル これが1950年。日本はまだ占領期で、主権回復をしていない。日本の科学が再建される前夜の作品なのですね。
谷川さんは、宇宙が膨張したり、そのなかで私たちの惑星がどういうものかを科学とは別に詩の世界で表現されました。ここから5年ぐらいすると、手塚治虫さんが、宇宙がどう膨張しているかといったことを題材として漫画やアニメ作品を発表します。あるいは、この時期から、日本の絵画、音楽のなかでクリエーターたちがそういうことに取り組んできます。