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第2回】最新脳科学で覆された睡眠の通説 知っておくべき六つの新常識

睡眠にまつわる通説は多いが、いずれも科学的な根拠があるわけではない。近年の脳科学の進歩で、こうした通説が次々と覆されている。最新の研究で判明した睡眠の新常識を紹介する。

【新常識 1】
必要な睡眠時間には個人差があり
年齢によっても違う

 理想の睡眠時間は8時間──。

 かつてもっともらしくいわれていたことだが、何か科学的根拠があるわけではない。

 では、いったい何時間眠ればいいのだろうか。実は、必要な睡眠時間には個人差があり、年齢によっても違う。

 図は、欧米で3577人を対象に行われた調査の結果だ。実験施設に宿泊した対象者の脳波を測定して睡眠時間のデータを得ている。この図から分かるのは、年齢によって睡眠時間が違うということだ。10歳ごろまでの睡眠時間は9時間近いが、40代以降は6時間台前半、70歳を過ぎると5時間台になっている。

 もっとも、必要な睡眠時間には個人差があるため、これらの数値も参考値でしかない。睡眠メカニズムの研究や不眠治療を行っている国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長は、「睡眠時間の長さをあまり気にする必要はない。十分な睡眠が取れているかどうかは、日中の体調から判断すればいい」とアドバイスする。

 後の回で詳述するが、睡眠時間が長いのに日中に強い眠気を感じている人は、睡眠時無呼吸症候群(眠っている間に呼吸が止まる病気)の疑いもある。自分の睡眠状態を知りたければ、後の回で紹介する自己診断表でチェックしてみよう。

【新常識 2】
睡眠不足に備えて
寝だめしておくことはできない

 平日は睡眠不足になりがちなので、その分、休日に寝だめしておこう。そんなふうに考えている人は多いのではないだろうか。

 この考えは間違っている。睡眠は「寝だめ」という言葉のように“貯金”することはできない。睡眠不足というのは“借金”であり、寝だめしていると思っていたのは、実は睡眠不足で膨らんだ借金を返済しているだけなのだ。

 寝だめができない理由を説明しよう。われわれの脳内には、起きている間に「睡眠負債」が蓄積されていく。睡眠の借金ということだ。眠るとそれは減少し、睡眠が十分であれば、睡眠負債は翌日に持ち越されない。

 ところが睡眠不足になると、睡眠負債が翌日に持ち越された上に、さらに蓄積されていくため、負債はどんどん膨らみ、ちょっと長めに眠っただけでは返済し切れなくなってしまう。

 われわれが寝だめと考えている行為では、たまった睡眠負債=借金を減らすことはできるが、起きている間に蓄積する睡眠負債を、貯金を取り崩すような形で減らすことはできないのだ。

 睡眠負債が膨らむと、日中のパフォーマンスが低下するだけでなく、命に関わる病気を引き起こすリスクも高まる。甘く見てはいけない。

【新常識 3】
寝付きが良過ぎるのは
潜在的睡眠不足の可能性が高い

 毎晩「バタンキュー」で眠れるから睡眠に全く問題はない。自慢げにそう話す人がいるが、実は要注意だ。

 「通常は寝床に入ってから10~15分くらいでまどろんでいく。バタンキューで眠れるというのは潜在的な睡眠不足の可能性が高い。休日に、普段より3時間くらい長く眠れるという人も、睡眠負債が蓄積している証拠で、危険なサイン」と三島部長は警告する。

 こうした潜在的睡眠不足を抱えている人は、往々にして自覚症状が少ない。それ故に、自分ではある程度眠れていると思い込んでおり、何の対策も取らずに放置してしまう。その結果、自覚できるような睡眠不足の症状が出てくるころには、かなり深刻な事態になってしまっていることが多い。

【新常識 4】
体内時計の周期は24時間より長いため
毎朝リセットが必要

 睡眠は「体内時計」によって強力に制御されている。脳の視交叉上核という部分にマスタークロック(親時計)があり、それが全身の細胞にある「末梢時計」を管理しているのだ。

 ところが、この体内時計の周期は地球の自転周期である24時間ぴったりではない。近年の研究によって、日本人なら平均で24.2時間程度であることが分かってきている。ただ、睡眠時間と同じく体内時計の周期にも個人差があり、24時間弱~25.5時間くらいの幅に分布している。

 平均的な日本人の場合、体内時計の周期が24時間よりも長いため、放っておくと毎日数分ずつ実際の時間から後ずれして、就寝時間が遅くなってしまうことになる。

 そこで必要になるのが、毎朝の体内時計のリセット。ここで大きな役割を果たすのがメラトニンというホルモンだ。メラトニンには眠りを誘う作用があり、光を感知すると分泌が止まり、暗くなると分泌が増える。朝になると目が覚めて夜になると眠くなる睡眠のリズムは、メラトニンによってつくられているのだ。

 脳にあるマスタークロックは、朝の光を浴びるとメラトニンの分泌を止める。すると、実際の時間から後ずれしていた分だけ体内時計が進み、そこから新しい1日のリズムを刻み始める。

 メラトニンは起床から約16時間後に再び分泌され、眠気を誘うようになっている。つまり、朝起きて光を浴びる時間によって、夜眠くなる時間も決まってくるということだ。

【新常識 5】
成長ホルモン分泌のゴールデンタイムは
眠り始めの3時間

 睡眠のゴールデンタイムは22時から2時──。

 この通説の根拠は、この時間帯に眠らないと成長ホルモンが分泌されないからというものだったが、近年の研究によって、この通説は事実ではないことが明らかになっている。

 成長ホルモンの分泌は、睡眠の時間帯ではなく、睡眠の深さによって決まるのである。何時に寝たとしても、眠り始めの最も睡眠の深い時間に成長ホルモンの分泌が増えることが分かっている。

 図の睡眠サイクルで見ると、眠り始めの最初のノンレム睡眠の間、約90分間が新たなゴールデンタイムということになる。

 成長ホルモンというと、成長を促進するものというイメージが強いが、実は他にも幾つか重要な役割を担っている。

 まず、体組織を修復して再生し、体の疲れを回復させる機能だ。長時間眠っているのに体の疲れが取れないという人は、睡眠が浅く成長ホルモンの分泌が十分ではない可能性がある。

 もう一つ重要な役割として挙げられるのが代謝作用だ。体内に取り込んだ脂肪や糖分、タンパク質などをエネルギーに変えてくれる。不眠になると肥満になるのは、不眠によって成長ホルモンの分泌が減少し、代謝が減るからだと考えられる。

【新常識 6】
深い眠りといわれるノンレム睡眠の最中も
脳は動き続けている

 睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠がある。上図で示したように、眠りにつくと、初めに浅いノンレム睡眠が現れ、時間とともに眠りがだんだんと深くなり、深い睡眠状態がしばらく続く。その後、再び浅いノンレム睡眠状態になり、レム睡眠へと移る。この最初のレム睡眠が現れるまでの時間はおよそ90分といわれている。

 90分サイクルで睡眠を取ると、起きる時間が眠りの浅いレム睡眠の状態に当たるためスッキリ起きやすいといわれる。だが、実は90分というのは平均値で個人差があり、当てはまらない人もいる。

 また、レム睡眠は体を休める睡眠、ノンレム睡眠は脳を休める睡眠だというのが通説だったが、近年の研究でこれが覆されつつある。

 「ノンレム睡眠時でも、脳は覚醒時の8割程度のエネルギーを消費している。どんな作業を行っているかは解明されていないが、休んでいるわけではない」

 睡眠の世界トップレベルの研究機関である、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史教授は、意外な事実を明かす。また、「レム睡眠時は、体の筋肉は弛緩しており確かに休んでいるが、脳は覚醒時以上のエネルギーを消費しており、非常に活発に動いている」(柳沢教授)。

 すなわち、脳は四六時中動き続けているのである。

※ 『週刊ダイヤモンド』2017年7月1日号より転載


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睡眠とは何か。現代科学はこの問いに明快な答えを持っていない。しかし、近年の脳科学の進歩によって、睡眠のメカニズムが少しずつ解明されてきた。今では、睡眠をおろそかにすると命に関わること、一方で、睡眠の質を高めれば日中のパフォーマンスが向...もっと読む

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コメント

a_tocci 、「睡眠時間の長さをあまり気にする必要はない。十分な睡眠が取れているかどうかは、日中の体調から判断すればいい」https://t.co/tqeUi7HSe2 9日前 replyretweetfavorite

thinktink_jp "毎晩「バタンキュー」で眠れるから睡眠に全く問題はない。自慢げにそう話す人がいるが、実は要注意だ。 「通常は寝床に入ってから1..." https://t.co/1alAY0iAeY https://t.co/azaYeqnStt #drip_app 10日前 replyretweetfavorite

yuma0118 睡眠のゴールデンタイムは20-22ではなく、深い眠りに入ってからの90分。 時間帯関係ないんか https://t.co/JH2STTXaSy 10日前 replyretweetfavorite