元カノ成分で出来ている男、今カレ100%で生きる女

cakesの人気連載を書籍化した小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、7万部超えのベストセラーとなっている燃え殻さん。2018年1月にデビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』を出版したばかりの新人作家・一木けいさん。「忘れられない恋」をテーマに初めての小説を書いたお2人が、小説のこと、恋愛のことなどを語り合いました。
*『1ミリの後悔もない、はずがない』の一篇「西国疾走少女」の全文をnoteで特別公開中

写真左から燃え殻さん、一木けいさん写真左から燃え殻さん、一木けいさん

椎名林檎が絶賛した「忘れられない恋」を描く小説

一木けい(以下、一木) 私は昨日初めてのインタビュー取材を受けて、今から初めての対談で、なにもかも初体験なんです、よろしくお願いいたします。燃え殻さんの初めてのお相手はどなたでしたか?

燃え殻 2017年6月末に『ボクたちはみんな大人になれなかった』が出版されて、初めての対談の相手は会田誠さんでした。しかし、この椎名林檎さんの「私が描きたかった全てが入っている」って言葉はすごいですね、パワーオビだ。

──(編集部)椎名林檎さんからは、「私が50分の円盤や90分の舞台で描きたかった全てが入っている。」という推薦文をいただきました。

一木けい『1ミリの後悔もない、はずがない』

一木けい『1ミリの後悔もない、はずがない』

一木 私は「西国疾走少女」という短編小説で2016年に「女による女のためのR-18文学賞」を受賞したのですが、この小説は椎名林檎さんの作品「閃光少女」に並走して頂くような気持で書き進めたんです。同じ福岡で育った同学年の私は、ずっと林檎さんの曲を聴いてきました。「西国疾走少女」を送らせて頂いたら、他の短編も読みたいと仰ってくださって。いまだに夢の途中にいるみたいです。

燃え殻 この言葉は同じ作り手としての最高の賛辞ですよね、うらやましいです。

一木 ありがとうございます。燃え殻さんはどなたにお会いした時が一番うれしかったですか。

燃え殻 僕は高校の時、大槻ケンヂさんのことが好きだったので、トークイベントをさせてもらったのはうれしかったです。控え室で2人きりの時間が少しあって、この場面を高校の時の自分が見たらどう思うだろう、と。その時に、これから良いことと悪いことがたくさん起きるだろうけれど、それは全部すぐ過ぎ去っていくから気にしなくていいよ、みんなすぐ忘れるから、と大槻さんに言われたんです。

一木 わー、すごい! お守りみたいな言葉ですね。

燃え殻 「おまえの知ってる大槻ケンヂこれだろ?」みたいに接してくれて、初めてのトークイベントも緊張し過ぎないで話せたんです。なんてありがたいんだ、と思ってます。

一木 今日の燃え殻さんは、私にとってまさにそういう存在ですよ。

燃え殻 そんな、僕なんてそんな存在じゃないですよ。

一木 いえ、すでに忘れてはならない単語、フレーズで頭がいっぱいです。

「忘れられない恋」を思い出すきっかけはイカだった!?

一木けいさん

燃え殻 実は僕、小説を読むという行為に慣れていないんです。だけど『1ミリの後悔もない、はずがない』は、すぐに世界観に入り込めてガーッと読めました。

一木 うれしい。ありがとうございます。

燃え殻 あんまり素晴らしいから、これからは書く方でなく読む方にまわりたいと思っちゃいました。

一木 ダメです。燃え殻さんのファンに叱られます。

燃え殻 会田誠さんから、ちょうど1990年代のことを小説に書こうとしていたんだけど、君が書いたから僕はもう書かないよ、と言われたんです。それがすごく自信になった。でも同じことを他の人に言う機会がこんなに早く来るとは思わなかった(笑)。

一木 勿体ないお言葉です。でもダメです(笑)

燃え殻 1作目の「西国疾走少女」は、主人公の女性が今は結婚して幸せそうなんだけど、料理中イカをさばいていたら、イカの中に魚が丸々一匹入っていて、それをきっかけにはじめての恋をガーッと思い出していく、その入り口がすごく良いですね。

一木 イカの場面、大丈夫でしたか。

燃え殻 主人公にとって、過去の恋はすべて消化されていて、消化されていないのはイカの中の魚だけ、ということなのかなぁと思ったんですが。

一木 わー、うれしい!

燃え殻 僕の小説の入口なんて、電車の中でイカ100匹、いやイカ渋滞、うーんイカ満員電車みたいなところから始まってる(笑)。お互いふとしたきっかけで、元カレ、元カノを思い出す、という設定は同じなんですけど、一木さんは冒頭で既に消化されたところから始めたのが、すごく僕の好みでした。こんなふうに書けたら、僕も叩かれなかったと思う……。

一木 そんなに叩かれたんですか?

燃え殻 心折れそうになるレビューは何度か読みました。生まれてすみません、ってバック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンに乗って謝りに行きたい気持ちになったくらいです。

一木 ひどい。とっちめてやりたい。

燃え殻 しかし、「忘れられない恋」に対してのアプローチの仕方が真逆でしたね。記憶って、順番通りに引き出しに入っていないから、突然、思いがけない形で忘れていた、忘れたいと思っていた忘れられない人を思い出しちゃうようなことがある。

一木 忘れたいと思っていたんですか?

燃え殻 日常生活に支障をきたすんで、忘れたかったんです。だけどかさぶたみたいなところをfacebook で引き剥がされてしまった。今SNSのおかげで、同じようなことをみんなが経験しているんじゃないかな、と思うんですが、そういう名前の付いてない記憶の辿り方、あるなあ、って。

一木 あると思います。私はお恥ずかしいくらいSNSには明るくないのですが。

燃え殻 自分は経験していないけれど、気持ち的にはその経験を疑似体験できる装置として、小説が機能している、と思いました。座組がうまいなあ。すごく小説を読んでるって感じがしました。

自分をカウンセリングするみたいに書いた

燃え殻 一木さんの小説を読んでいて、この人は静かに人生に絶望していると感じたんです。僕の仕事はテレビの裏方で、みんながお祭りでも裏で焼きそばを焼いているみたいな、自分では幸せから5段くらい階段を下りたところにいて世の中を見ている感覚なんですけど、一木さんは狭い路地にいるような感じがしました。だけど、今バンコク在住であちらで書いたんですよね? そういう明るい匂いはぜんぜんしない。いったいどんな気持ちで書いたんですか。

一木 2015年の夏に寝屋川市で中学1年生の女の子と男の子が夜に出歩いて殺されてしまったという事件が頭から離れなくなりました。気づいたら、会う人会う人にその話をしているんです。どう思う? あなたはどんな中学生だった? って。そんなことを繰り返していたら突然、自分の子どもの頃を思い出しちゃったんです。

燃え殻 そうなんですか。

一木 問題のある家、それからトイレの個室に入っていたら上から水をかけられるような地獄の学校生活が、一気に噴出したんです。思い出したくなかったことがたくさん甦ってきて苦しかったので、自分で自分をカウンセリングするみたいにデビュー作を書きました。

燃え殻 なるほど。それじゃあ、パッションだけで書いたってこと?

一木 パッションだけです。小説家になりたいというより、小説を書かないと生きていけなかった。治療する代わりに書いたんです。

燃え殻 でも5篇の短篇がすべて繋がっていたり、絡み合っているけど、そういう構成はあとから?

一木 まず「西国疾走少女」があって、それを軸に他の作品を書いたので、徐々に話をふくらませていったという感じです。

燃え殻 めちゃくちゃ戦略的じゃないですか。

一木 戦略とはかけ離れていますよ。既に書いたものを元に考えた短編もあります。

燃え殻 そんなに書いたものがあるんですか。デビューしたばかりで?

一木 受賞するまでに4年間最終候補に挙げていただいたので、ストックが何作かあります。それから単行本の話が出てから書いて、収録しなかった作品も4、5本あります。

燃え殻 そんなに!? それメルカリで売ってないんですか!?

一木 メルカリの使い方知らないし(笑)

燃え殻 でも描いた人物に奥行きがあるから、意図的に構成しなくても繋がっていったんですね。なるほど。

女の子へ向けてのファンファーレ

一木 書きながら過去がどんどん出てきて、それを消化して本にしていく間に、この本を10代の子に届けたいと思うようになりました。これから先いいことなんて何も起こらないと思っている人や、いま悲しい思いをしている子に。「がんばれ女の子」って、過去の自分へのエールでもあり、元少女だった人たちにも、ちょっと背中を押すとか、並走する存在として本を届けたい。女の子へ向けてのファンファーレという感じでしょうか。燃え殻さんは……

燃え殻 イカのあの魚以上に大量に消化できないまま、ままならない毎日を生きてる人間、特に男子の肩をポンポンと叩きたい、という感じでしょうか。

一木 もちろん個人差はあると思いますが、男性は「ボクたちはみんな大人になれなかった」、女性は「私たちはだいたいみんな大人になれた」かもしれないなあと思いました。全員ではないと思うけど、でも男の人たちは大人に……

燃え殻 なってないですね。それでも生きなきゃいけない、がんばって生きてるよねって、自分が愛した人たち、まわりの人たちに、「でもいいじゃない」と言いたいのかもしれない。自分を慰めたいのかもしれない。

*『1ミリの後悔もない、はずがない』の一篇「西国疾走少女」の全文をnoteで特別公開中

写真:新潮社写真部

椎名林檎さん絶賛!! 「私が50分の円盤や90分の舞台で描きたかった全てが入っている。」

この連載について

燃え殻×一木けい「大人になれなくても、1ミリの後悔もない?」

一木けい /燃え殻

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akihik0810 『1ミリの後悔もない、はずがない』を出版したばかりの新人作家・一木けい 18日前 replyretweetfavorite

chitosenagao フムフム。。→ 20日前 replyretweetfavorite

Shincho_Bungei 一木けいさんの『1ミリの後悔もない、はずがない』刊行を記念して『ボクたちはみんな大人になれなかった』の 20日前 replyretweetfavorite