伝説級の話題作。『最後にして最初のアイドル』刊行記念インタビュウ

1月24日にハヤカワ文庫JAから発売されるや、ローカルに爆発的なヒットを記録中の短篇集『最後にして最初のアイドル』。読むと誰もがアイドルになれる「最後にして最初のアイドル」、読めばガチャへの課金がやめられる「エヴォリューションがーるず」、読んだら声優の苦労がわかる「暗黒声優」の計3篇を収録する本書。今回は「エヴォがる」「暗黒声優」の裏話を中心に草野先生にお話を伺います。
短篇集、電子版も配信開始!


『最後にして最初のアイドル』ハヤカワ文庫JA/電子版767円(税込)

●ごあいさつ

—物理書籍化、おめでとうございます。まずはあらためて自己紹介をお願いします。

草野 わたくしは、いま、北海道に住んでおります。みなさんは北海道という島をご存知でしょうか? 北へ北へと果てしなく歩いていき、青函トンネルを抜けると、その島へと行き当たります。とても寒い場所で、冬では最高気温も零度を下回ります。雨は凍りつき、路面は一面の雪景色です。雪は人々の足で踏み固められ、磨き上げられた大理石のようになります。それがもとで人々は転倒を繰り返します。行政は黒い砂を各所に配布し、転倒を防止しようとしていますが、延々と降り続ける雪に挑むのはのれんを腕押しするようなものです。結果として、白い雪と、黒い砂の地層が街角のあちらこちらに出現します。
 わたくしの父は大学で太陽の研究をしています。太陽とは、みなさんの頭の上にあるとても熱いガスの塊です。太陽には複雑な磁場が帯びていますが、数百年に一度、磁場が嵐のように蠢き、遠いこの地球にも影響を及ぼします。父はその出来事を研究しているのです。母は、現代詩を書いております。キンドルでも配信されておりますので、買ってみてください。

—表題作は昨年、42年ぶりに新人デビュー作で星雲賞を受賞しました。授賞式の思い出はありますか。

草野 もうだいぶ昔なので、そのときの気持ちなどはあらかた忘れてしまっていますが、受賞に対してかなりの確信を持っていたような記憶があります。
 受賞スピーチでは、近い将来『百合SFアンソロジー』が出版されるだろうという予言をしました。現在の日本SF界隈では、百合SFが人気です。ワイドスクリーン百合バロックという言葉が公式のあらすじでも使われていますし、強い百合こと『裏世界ピクニック』もコミカライズが発表されました。創元SF短編賞を受賞した「七十四秒の旋律と孤独」も百合SFです(作者である久永実木彦さんから直接聞いたので間違いないでしょう)。柴田勝家殿も百合SFを書くでしょう。いまの盛り上がりから考えると、百合SFアンソロジーが出るのは間違いないといえます。

●ソーシャルゲームSF「エヴォがる」裏話

—「エヴォリューションがーるず」はソーシャルゲームと宇宙創生がテーマです。草野さんもソシャゲをされるのでしょうか?

草野 ソシャゲはやっていましたが、課金したことは一度もありません。安定した収入がない身なので、それほど簡単に課金することはできないのです。最近は、スマホの容量がなくなってきましたので、ゲームは削除してしまいました。ゲームを辞めた理由として、終わりなきバーチャル努力を繰り返すことに意味を見出せなくなったという理由も考えられます。ソシャゲで破滅する場面は、インターネットでソシャゲで破滅する人々の体験談を読みまくった結果、完成したものです。

" ゲームを進めるために、洋子は課金することを決心した。キャラクターを手に入れるためにはガチャに課金しなければいけない。ガチャとは、ゲーム内のポイントと引き換えにランダムにキャラクターやアイテムが出てくるシステムのことだ。ランダムというところにポイントがある。プレイヤーは狙ったキャラクターが出てくるまで何度もガチャを回さなくてはいけない。その結果として、運営会社が儲かるわけだ。このシステムを思いついた人は天才だろう。”(文庫100ページより)

—「ガチャ」が一世を風靡している現代の風潮についてはどう思われますか。

草野 いずれは私の小説も、ガチャシステムが搭載され、課金しなければページをめくれないようになるだろう。ページには文芸作品としてのレベルを表すレアリティが付く。最低レベルだと主人公が何の理由もなくキャラクターを殺しはじめる。もっと上のレベルだと、殺す理由が明らかにされる。R程度だと「太陽がまぶしいので」ほどの理由であるが、SRやURだと読者はみんな納得し、主人公に拍手を送る。対戦システムも実装され、ストーリーラインの文芸レベルで他のプレイヤーとバトルできるようになる。主人公の行動に理由があると強く、なければ弱い。


手書き文字と絵で書かれた初稿(文庫版130ページの場面)

—作品の参考にしたゲームやアニメなどあれば教えてください。

草野 読んだ方ならば誰もがご存知だと思いますが、全体のモチーフとして大人気アニメ『けものフレンズ』を取り入れています。ソシャゲをテーマにしようと思いついたのは放送よりも前でしたが、執筆中にちょうど流行したため、わたくしに影響を与えたのだと推測されます。熱しやすく冷めやすいたちと形容できましょう。作中のゲームシステムは「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル(スクフェス)」と「ミラクルニキ」を参考にしました。ソシャゲではありませんがアーケードゲームの「アイカツ!」もいくらかモチーフとしています。ラストの展開は『魔法少女まどか☆マギカ』、エピローグについては『君の名は。』が先行作品としての大きな位置を占めています。
 小説については、さまざまなものを参考にしていますが、最大のインスピレーションの源はデイヴィッド・リンゼイの『アルクトゥールスへの旅』です。この本はすごい。「暗黒声優」に対してもこの本が大きな位置を占めています。

—本作のSF的なテーマは何でしょうか。

草野 いくつかの大きな理論体系を集結させ巨大な驚きを生み出すことだ。進化論、宇宙論、自由論、時間論、意識論という五つの論が大集合だ。論が互いを支えあい、まだ見ぬ地平を読者に与える。その結び糸として「なぜこれほどまでに苦しいのか」という根源問題がある。

 一番最初に核となるアイディアを思いついたのは、ジョアオ・マゲイジョの『光速より速い光』を読んで、光速度変動理論というものを知ったことだ。のちに、自由意志について勉強していくうちに、行為者因果説というものを知り、光速度変動理論と行為者因果説を組み合わせようと思った。自由意志と時間は密接に関係しているので、タイムパラドックスについての議論に結びついた。グレゴリー・チャイティンの『ダーウィンを数学で証明する』を参考にして、進化をアルゴリズムとして見る立場から、チューリングマシンと超チューリングマシンの対立という全体の見取り図を整理した。

●声優スペースオペラ「暗黒声優」はいかに生まれたか

—「暗黒声優」では、タイトル通り「声優」が大活躍します(文庫261ページから目を背けながら)。この設定はどのように生まれたのでしょうか。

草野 ソシャゲの次は声優をテーマにしようということはかなり前から考えていた。なぜ声優なのか。第一に、声優という職業はみんなかなりよく知っていて興味がある。ヒヨコ鑑定士よりも有名だと思われる。ヒヨコ鑑定士をテーマにしたSFより声優をテーマにしたSFのほうが受け入れられやすい。第二に、単に有名というだけではなく、まだSFであまり書かれていないテーマだ。宇宙飛行士は声優に負けず劣らず有名だが、宇宙飛行士テーマのSFは大量にありすぎていまさら新しいものを書くことは不可能だ。対して、声優SFはあまり見受けられない。
 元々は、ホログラフィック宇宙論を使って声優が三次元世界と二次元世界を行き来する話を書こうと思っていたのだが、あまりにも難しすぎて断念した。他にも、声優が脳を増やして戦う話や、時間認識を変更して密室殺人を解き明かす声優探偵VSユーチューバー声優のSFミステリとか、自分でもよくわかっていないアイディアがメモされている。

 なんとか、科学的概念と声優を結び付けられないかと考えた。声優という概念と相似している科学的概念を見つけられれば、小世界が大世界のモデルとなり、個人的出来事と宇宙的出来事は合わせ鏡のように一体化する。個人的なストーリーラインの解決が、全体的なストーリーラインの解決と合致する。そして考えた。声優は声を出す。声というのは音だ。音とは空気の波であり、宇宙空間では聞こえない。しかし、宇宙空間で音が聞こえるならば? その状況は、スペースオペラで日常的に描かれていたものだ。宇宙空間でも音が出る世界を舞台にしたSFならば、声優が活躍できるのではないか? 音が出るためにはなんらかの媒体で満ち溢れていなければならない。宇宙空間に満ち溢れているものといえばエーテルだ。声優はエーテルを操れるから強い。こうして、声優が活躍する世界設定が整ったわけだ。

" 電磁波はエーテルの波であり、声を震わすことで声優はビームを撃つことができる。(文庫201ページより)

—本作はスペースオペラということで、過去2作と意識して変えた点などはありますか。

草野 「最後にして最初のアイドル」と「エヴォリューションがーるず」を書いたのち、自分のストーリーのテンプレから脱却しなければならないという切迫感に駆られた。二つの作品のテンプレは以下のようなものである。現代社会に住む主人公が出てくる。主人公は何らかの問題を抱えている。その問題はサブカルチャーと関係したものである(アイドルになれない、ソシャゲ中毒など)。主人公は一度死んで、別の形として蘇る。蘇った主人公は、最初は弱いが、自己改造を繰り返しバトルしていくうちに強くなる。バトルはだんだんスケールアップしていき、時間は加速し、最後は超次元的規模となる。最終章では、地の文ですべて説明され、個人的問題と形而上学的問題が一挙に解決される。

 このテンプレに沿う問題は二つある。一つは、スケールアップするという手法は題材が限定的であることだ。多元宇宙や十一次元を出してしまったのちには、行き着く果ては無限であるが、無限は本職の数学者であるルーディ・ラッカーに先を越されている。ブルーオーシャンではない。「暗黒声優」では、意図的にスケールを小さくした。せいぜい銀河サイズの話でしかない。スケールの小さな話も書けるということを証明したい。
 二つ目の問題は、悩むダウナー系主人公ばかりで書けるキャラの幅が狭くなるということだ。悩みの解決をストーリーラインの主軸するというやり方は役に立つが、そればかりでは飽きる。「暗黒声優」の主人公は悩まないアッパー系主人公であり、ストーリーラインの主軸は復讐という単純明快なものだ。元々、主人公はサイコパスという設定であった。サイコパス声優ってカッコいいでしょ。しかし、サイコパス設定は、サブキャラはともかく主人公には向かないことがわかった。サイコパスが自身でこしらえたゲームを解くという出来事は、マッチポンプと見なされ、その必然性が失われる。必然性が失われたストーリーは色あせてしまう。フィクションは自由であるがゆえに、何らかの制限が与えられないと意味があるストーリーが誕生しない。通常、それは理由の連鎖である。理由の連鎖があることで、読者はキャラクターの人生が価値あるものであるということを見出す。

「アイドル」「エヴォがる」との違いとしては、あまり最後の大ネタにストーリー全体が乗ってはいないというものもある。前作では、すべての事象は最後の大ネタの飾りつけであったが、今作では、いくつかの中ネタをバランスよく配置し、相互にネットワークを組み、矛盾しない世界観を設計するという方向へシフトした。世界設定を一度創れば、再利用ができるのでおいしいのだ。
 今回はスペースオペラということで、スティーヴン・バクスターの〈ジーリー〉シリーズやアレステア・レナルズの〈啓示空間〉シリーズを参考にした。両者とも、科学的知識を加味した「ニュースペースオペラ」というジャンルに分類される作品を書いているので、「暗黒声優」もそのカテゴリに入れて欲しい。


「暗黒声優」構想ノート(宇宙魚について)

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草野原々、大いに語る

草野原々

1990年生まれ。2016年、『最後にして最初のアイドル』で第4回ハヤカワSFコンテスト《特別賞》を受賞し作家デビューし、同作の電子書籍版が大きな話題を呼んでいる新星・草野原々氏のコーナーです。

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コメント

medihen 物理本も買ったよー! 19日前 replyretweetfavorite

SLGjpn [あとで読む] 19日前 replyretweetfavorite

yumeka 見ている:/* 20日前 replyretweetfavorite

yoshimana 筆談かな? インタビューないにあった「小説ガチャ」って面白そうだ 20日前 replyretweetfavorite