家族でもなく、友達でもなく、絶対的な他人であるからこその信頼、肯定

28年間のSMAPの活動とその思いを、数々の言動から振り返り、幼少期から三十代に至るまでのファンの女性の28年の歴史と共に纏めあげ、「アイドルとは、ファンとは何か」を問い直すアイドルとファンのノンフィクション書籍『SMAPと、とあるファンの物語』。本書を公開する連載、44回目。最終回は、書きおろしcakes版あとがき。目に見える形を失ったSMAP、「新しい地図」――時は常に新しい今を刻んでいく。

『SMAPとそのファンの物語—あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど』

cakes版あとがき

 cakesでの連載が始まった頃、母親がふと口にした、私の思い出話がありました。


「幼稚園の頃、大道芸のお祭りに連れて行くと、ピエロの作る犬や花の風船が欲しいからと、最前列で一生懸命拍手をしていた」


今思うと子供なのだから、「欲しい」と正直に伝えた方がピエロはあっさり存在に気づいてくれるだろうし、事実、拍手しているだけの子供が、あの風船をすんなりもらえる確率はそんなに高くなかった気がします。


それでも、私は黙ってずーっと拍手をしているタイプの子供でした。


たぶん、本当の気持ちや願いを一度でも口にだしてしまった後の、急にまとわりつく嘘くささが、子供なりに嫌だったのだと思います。



 そして成長する中でもそのスタンスは変わることがなく、学生のときも、社会人になっても、本当の悩みや夢は周囲に一切打ち明けないまま、私はこれまでの人生を生きていました。


それは聞こえのいい言葉であるようで、また一方ではその時々で人様に隠したかった自我の矛盾、言い訳の奥底にたまっていく自分の弱さに目をつぶることでフラフラとここまで生きてきた、そういう人間の最後の防衛手段でもありました。


だから東京での内容打ち合わせで「SMAPの歴史と同時に自分の今までの人生のことも書いてみてほしい」と担当編集に言われたときは、読み物としての面白さ以上に隠しておきたかった自分を売り物にする、それが本当に正解なのかどうか答えが出せず、じゃあよろしくお願いしますと別れた新宿の駅ビルで、トイレに篭ってそのまま一人吐きました。


なんでこんなことになったのかなぁと思いながら、どうにもならないぐちゃぐちゃとした気持ちを黙って吐き出し続けることしかできず、なんとか落ち着いたところでやっと帰りの電車に乗りました。


”全部終わって帰りがけ、一気に自我の渦に飲み込まれる感じがして、すんげ—ゲロ吐きそうになってしまった”


Twitterでやはり微妙に嘘をついて気持ちをごまかした2016年9月8日21時13分、頭上ではSMAPの顔写真に白抜き文字で「大金持ちの四十路のお子様」と添えられた週刊誌の中吊り広告が、やけに大きく揺れて見えました。

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この連載について

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SMAPとそのファンの物語—あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど

乗田綾子

転校を繰り返し、不登校にもなってしまった。思い焦がれた上京は、失敗した。願ったとおりの現実を生きるのは、難しい。だけど――。小学校低学年から30歳に至るまで、とある女性の人生にずっと寄り添っていたのは、親でも彼氏でもなくアイドルだった...もっと読む

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コメント

urbansea 乗田綾子、《黙りつづけた私の人生は、連載や書籍という形で、皆さんの目に触れることによって、やっと次の扉にたどり着くことができました。》 https://t.co/ebZFPgx0Ze 3年弱前 replyretweetfavorite

becchymama 感動した。 3年弱前 replyretweetfavorite

pigle0216 ありがとう https://t.co/0rB92iOw9U 3年弱前 replyretweetfavorite