​ここが巣窟、迎えに来て

世の女性たちがなんとなく共有する、誰もが知るおじさん著名人たちへのファジーな嫌悪感の正体に迫る新連載「ニッポンのおじさん」。
第7回はAV界の帝王・村西とおるさんについて。
セクハラ被害や性的虐待などに対して「私も」とハッシュタグをつけて共有するMe Tooブームのなかで、そうした時代についていけない猛者おじさんたちの存在を論じます。

セクハラ発言は安全なところで

 綺麗な会社員の女の子が飲み会などにいると、男性陣やおばさんたちが「そんな可愛かったら会社で男が放っておかなくて大変でしょう」なんていう言葉をかけがちだが、言いたいことも言えないme tooな世の中で、ポイゾン、今どき不用意に口説いたりさりげなく触ってきたりするような男性はほとんどいない。

私自身も、かつて日本のおじさんサンプル図鑑のような会社に勤めていたが、基本的に上司なんてみんな紳士的で礼儀正しく、良識的で臆病だ。こちらが、よほど大声でオッケーサインを叫ぶか、あるいは許容範囲以上のお酒でも飲まない限り、おっぱい触るどころか、「何カップ?」とも聞いてこない。

 だからといって、別に女のカップ数に全人類が興味をなくしてしまったのかというと、そういうわけでもないらしく、むしろこちらから「本日配属されました、ヌキたい時にはFカップでおなじみの鈴木です。鈴木ムネオって呼んでください」とでも自己紹介すれば、サンクチュアリを見つけたと言わんばかりにセクハラ発言を連発してくるような素直さはある。要するに、窮屈とは思いつつも、会社員生命をかけてまでおっぱいは触りたくない、安全とわかりきっている場所だけで遊ぶ、というのがソフィスティケイテッドな男性の標準マナーとなっているようだ。車道は危ないからサイクリング場だけで自転車をこぐ、みたいな。実にソツがない。

時代遅れのムラもある

 さてしかし、いくら日本が、識字率が超高く、標準語がどこでも通じて、鹿児島は桜島にまでコンビニがあるような国であっても、国土全体でそのような態度が一斉に標準化しているわけではない。ここ数年、地方の(しかも名前も知らないような自治体の)首長が、おばさん演歌歌手の胸元に手を突っ込んだり、新聞記者に抱きついてキスしたり、市長室でやはりキスしたり、というニュースをよく目にするようになった。

 これ別に、首長が頭のおかしい色情狂ばかりなわけでも、彼らに批判覚悟でおっぱいを触る勇気があるわけでも、セクハラされた女性に社会的生命をかけるほどの飛び抜けた魅力があったわけでも多分なく、単に中央のme tooな空気やソフィスティケイテッドな態度が、まだ日本の奥地のムラにまでは届いてないというだけの話だ。都心の企業の中では絶滅しつつある良識的でも紳士的でもないセクハラオヤジは、そういった奥地に結構まだ生息している。

 しかし、あらゆるメディアがくまなく発達しているこの現代なわけで、そういった残された各地のサンクチュアリも、何かの拍子で一瞬にして全国的に晒され、ソフィスティケイテッドな国民はそれを目の当たりにして、「なんて前近代的な」と嘆かわしい顔をしてみせる。当然、都会的な常識の光で照らしてしまえば、地方のおじさんのおっぱい揉みは、生き残った部族が娘を生贄にして神を祀る儀式を未だにやっているような時代錯誤感があるのだが、晒された本人たちからすると、おらが村の雰囲気と、全国的な反応の温度差に、若干戸惑い、またあまり理解できずに開き直ったりする。情報社会に住んでいる以上、中央の空気の変化を敏感にかぎとらない彼らが悪いと言ってしまえば終わりなのだが、まぁちょっと哀れな気がしないでもない。

 そのようなムラというのは当然、リージョナルな中央・地方という枠組みだけで洗い出せるものでもない。外部、ここでいうところの時代の潮流とは断絶されたところでぬくぬくと育っているオヤジの巣窟というのは、結構色々な業界に点在する。そして近年、そういったムラに時代の魔の手が伸び、徐々に解体が進みつつあるのもまた事実だ。脱税がデフォルトだったホスト・ホステスムラはマイナンバー制度に揺れ、巧みなスカウト・口説きが生命線だったAVムラは強要問題に揺れ、ブラック上等だった新聞ムラは過労死問題に揺れている。

 そしてムラ自体が揺れまくって万事休す状態でも、本人一切へこたれず、時代の潮流をぶっちぎりで無視して我が常識で押し通す猛者というのも存在する。私は、乳揉みが暴露されようが秘密漏洩で起訴されようが町のホームページで憩いの場や農園を明るく紹介する大久保司町長もこの種だと踏んでいるが、そういった猛者たちの代表格にあるのは、AVの帝王こと村西とおるだと思っている。

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ニッポンのおじさん

鈴木涼美

どこか物悲しく、憎めないおじさん。男にリスペクトされる好感度高い系おじさん。こじらせおじさん。新しい価値観で社会を斬るおじさん。そして日本社会を動かすおじさん。彼らはなぜ〈おじさん〉になってしまったのか。彼らの何が〈おじさん〉たる所以...もっと読む

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コメント

tipi012011 ここが巣窟、迎えに来て|鈴木涼美 @Suzumixxx | 2年弱前 replyretweetfavorite

queensmodelwork ここが巣窟、迎えに来て | 2年弱前 replyretweetfavorite

lovers_after_me きゃー、鈴木涼美の連載で『時代遅れのムラもある』の章で、俺が数回呟いた八千代町長が取り上げられていて噴きまくってる所(笑)。そう言えば結局この町長の事、下書きしたまま呟き損ねたなー…。https://t.co/tHG8fVQNbb 2年弱前 replyretweetfavorite

1_hikaru_1 ここが巣窟、迎えに来て|鈴木涼美 @Suzumixxx | 2年弱前 replyretweetfavorite