石野雄一
せっかくここまでやったのには愚の骨頂〜サンクコスト
ホームページをリニューアルすべきか?それともやめるべきか?混迷する議論に、「ここまでお金かけたのにもったいない。」という感想が漏れる。それこそ、避けなければならないサンクコスト・バイアスだったのだ―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、出版社立て直しに挑む。ビジネス教養が一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第21回!
ここでやめるのはもったいない?
「でも……」
これまで黙って話を聞いていた田之上が口を開いた。
「社長はご存じないかもしれませんが、これまでホームページは何度かリニューアルしてきて、少しずつ見やすさや更新作業のしやすさは改善されています。投資金額でいえば数千万円に達すると思います。だから、リニューアルをまったくしないというのは、これまでの投資をドブに捨てるようなことにならないでしょうか」
「あのホームページには、そんなにお金がかかっているのかあ。それを聞くと、リニューアルをやめるのはもったいないね」
「ちょっと待ってください」
今度は石島が話に割って入ってきた。
「その考え方は、ファイナンス的には正しくありません」
「そうなの?」
「なぜなら、投資の判断をするときには、プロジェクトを実施する場合のキャッシュフローと、実施しない場合のキャッシュフローを比較すべきだからです。言い換えれば、プロジェクトを実施することによって増加するキャッシュフローに着目する必要があるのです。これを『増し分キャッシュフロー』と呼びます」
「また、新しい言葉が出てきたね」
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この連載について
石野雄一
小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む
著者プロフィール
1991年4月旧三菱銀行に入行し、9年間勤務した後退職。2002年5月米国インディアナ大学(MBA課程)修了。帰国後、日産自動車(株)入社。財務部にてキャッシュ・マネジメント、リスクマネジメント業務を担当。2005年3月退職。2年間 独立系財務戦略コンサルタントとして活動後、2007年2月より旧ブーズ・アレン・ハミルトンにて企業戦略立案、実行支援等に携わる。2009年5月同社を退職後、コンサルティング会社である株式会社オントラックを設立。2011年4月より3年間、中央大学大学院 国際会計研究科 非常勤講師を務め、現在は、事業投資・撤退基準策定・導入支援コンサルティング、プロジェクトファイナンスのCFモデルの構築支援、ファイナンス、財務モデリングの研修事業を行っている。著書に、10万部を突破し、ファイナンスの定番書として読まれ続けている『ざっくり分かるファイナンス』(光文社新書)のほかに、『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社)、『まんがで身につくファイナンス』(ダイヤモンド社)がある。
★著者ページ http://ontrack.co.jp/