谷川俊太郎「受注生産で生計を立てる」

【第2回】戦後まもなく、19歳で詩を発表してデビューした谷川俊太郎さん。それでも、20代の頃はどうやって暮らしていくかが最大の問題だったそうです。詩だけでは食べられないので、書く仕事であれば何でも引き受けていた――(聞き手・ロバート キャンベル)
 ※本インタヴューでは自身が代表作を3点選び、それらを軸にして創作活動の歴史を振り返る。「二十億光年の孤独」(『二十億光年の孤独』1952)、「あなた」(『みみをすます』1982)、「さようなら」(『私』2007)。


受注生産で生計を立てる

ロバート キャンベル(以下、キャンベル) 戦後の『文學界』デビューから間もなく、『二十億光年の孤独』という最初の詩集をお出しになります。1952年ですから戦後の占領期です。そんな時代にあって、一番センスの鋭い、日本のモダンな感性をたたえる青年としてのイメージが、われわれにはあります。

戦時中にも言葉との出会いはあったと思うのですが、どのあたりから「自分の言葉を作りたい」、「言葉で遊びたい」と思ったのでしょうか。

谷川俊太郎(以下、谷川) 詩を書き始めて、初めて原稿料というものをもらったんですね。それは思いがけないことでした。つまり、自分がノートに書き散らしていたものがお金になったことは、何か社会での一つの役割を持ったという感じがして責任があると思ったんです。

それでも、そのときはまだ「本当に詩はどういうものであるべきか」とかは本を読む程度で、自分ではそんなに考えていなかったんです。ただ、やはり最初にそういう商業文芸誌に紹介されたという幸運のおかげで、読者というものを若い頃から意識していました。人に理解してもらった方がいい、感動してもらえればもっといいという気持ちで、ずっと書き続けてきたものですから。

なにしろ僕は大学を出てないから、他に能が無いわけです。つまり、お勤めなんかできないわけですね。だから、そういう自由業としての大変さは、若い頃からずっと感じていました。いまから思うと、「資本主義社会のなかで、詩もやっぱり一種の商品だ。である以上は、できるだけちゃんとした、いい商品を作らなきゃいけない」みたいな意識が、気が付いてないけどあったんじゃないかと思うんです。


『二十億光年の孤独』(創元社、1952年/英訳も収録、川村和夫・W.I.エリオット訳、集英社文庫、2008年)

キャンベル まずノートに詩を書いて、お父様がそれを添削したというのは初めて知りましたが、それが三好達治さんを経由して、不特定多数の読者たちの前に現れるわけですね。1950年のことだったと思うのですけれども、そこでもう読者を得ることになるのですね。

谷川 読者を得るというよりも、20代の頃の僕はどうやって暮らしていくかということが最大の問題だったわけです。とにかくお金をもらわなきゃいけない。いい詩を書くというよりも先に、ちゃんと生活をしなければという気持ちがすごく強かったですね。その頃はまだ独身でしたけど、結婚したらもちろん自活しないといけないわけですから、詩の意識よりもそういう生活の意識の方が強かったと思うんですよ。

とにかく注文があれば書けるものは全部書くということで、詩のほかに映画の脚本とか歌の歌詞とか、フォト・ストーリーに文章を付けるとか、そういうことをずっとやってきたという感じです。だから、わりと一貫して受注生産でやってきたんですよ。それは非常に運がいいことなんですけどね。

キャンベル 受注生産と聞くと商業的なもので、どちらかというと大衆に迎合するような形を思い浮かべるわけですが、敗戦後の4、5年の時点で、もう詩の筆一本で実際に立つということの大変さは、私を含めて想像できないと思います。しかし、谷川さんは最初から詩で食べていくということを考えていらしたのですね。

谷川 うーん、詩だけでは食べられないことは意識していましたから、書く仕事であればできることは何でも受けていましたね。

キャンベル 集計用紙に受注したいろいろなものをぎっしりと書いていらしたと。

谷川 そんなこと、なんで知っているんですか!

キャンベル ファンですから(笑)。集計用紙には依頼されたこと、そして締め切りが書かれていて、一つ出来上がると消していく。そういう非常に几帳面な作者だと。

谷川 そうです。意外に僕はあまり締め切りに遅れない方なので、編集者に「つまんない」と言われますけれど。

キャンベル いえいえ、そんなことはないです。締め切りを守らない人には、爪の垢を煎じて飲んでいただきたいくらいです。岩波書店にいた方が、長い編集者生活のなかで締め切りの1カ月前に原稿が届くのは谷川さんだけだと言っていました。

谷川 きっと僕は臆病なんですよ。

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現代作家アーカイヴ~自身の創作活動を語る

飯田橋文学会

高橋源一郎さん、瀬戸内寂聴さん、谷川俊太郎さん、横尾忠則さん…小説家・詩人・美術家の人たちは何を生み出してきたか? 自身が代表作を3作選び、それらを軸として創作活動の歴史を振り返ります。創作の極意、転機となった出来事、これからの話ーー...もっと読む

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コメント

pirates_osaka 続き読みたくなるなぁ^^;  7日前 replyretweetfavorite

hiranok こちらは、デビュー後のお話です! / (cakes(ケイクス)) #NewsPicks https://t.co/Ohf8ZTau8t 7日前 replyretweetfavorite

mayumiura 【第2回】 7日前 replyretweetfavorite

yasuhiko_tanaka 受注生産で生計を立てる。 *谷川俊太郎さん|飯田橋文学会 https://t.co/DsNqyC2jfk 14日前 replyretweetfavorite