第19回】キレイはきたない、きたないはキレイ(後編)

有楽町の東京交通会館で、母親に化粧をされて笑ってみせる女児と出会った岡田さん。「ブスだから化粧すべき」と「ブスは化粧しても無駄だ」の狭間で身悶えながら育った岡田さんが、その子を見て感じたのは、嫌悪と羨望という相反する感情でした。すべての女子に捧げるエッセイ、後編です。

【前編はこちら


 東京交通会館の女子便所で、若い母娘が一緒に化粧をしている光景を見た。母親は私と同世代、娘はちょうど4歳くらい。「はい、キレイキレイね」と促されるまま、お粉をはたいてリップグロスをつけ、幼い娘は最後に鏡に向かって「うふ!」と笑ってみせた。

 私はまず驚き、あざとくて、気味が悪くて、イヤだなぁ、と思った。何が「キレイキレイ」だ、化粧なんて、そんな小さな子供にはまだ早い、と腹立たしく思った。七五三などで晴れ着を着せてやるのとは話が違う。我が母の教えに照らしてみれば、この女は己の娘に、分別もつかない幼い時分から「本質を覆い隠して虚飾を盛る」「自分を化かして世を欺く」「愚かでブスな女になる方法」を、常日頃から教育しているのだから。

 でも一方で、そんな光景を見て、なんだか哀しい気持ちになった。単にムカッ腹が立つだけではない、私をすっぽり覆い尽くすようなその哀しさの正体も、自分ではよくわかっている。要するに私は、あの母娘を「ちょっと羨ましいな」とも感じたのだ。

 あの4歳児にとって、お化粧は「きれいになる魔法」だ。私もかつては魔法少女モノのアニメに熱中し、もしも魔法のコンパクトが手に入ったら、見違えるほど美しい成人女性に変身できると夢想していた。夢想を夢想のままで終え、魔法のコンパクトではなくなぜか特撮ヒーロー戦隊モノの変身ベルトをねだっていた4歳当時の私と、現実世界でもフェイスパウダーとリップグロスを使いこなしている4歳児とでは、世に言う「女子力」の差がすでにして桁違いに開いている。『超電子バイオマン』の銃剣セットを買ってもらったあの日から、地球の平和を守るため、いかなる悪とも闘い抜く覚悟はできているのだが、私は33歳にもなって、目の前のこの「んぱ!」の技術を知る女児には、勝てる気がしない。刺し違える自信すらない。

 もし、と夢想する。もし、私の女親が、こんなに幼いうちから「キレイキレイはよいことだ」と教え込んでくれていたら。私はもっと別の人生を歩んでいたかもしれない。時間は巻き戻せないし、子供は親を選べないけれど、もし。すべての女の子が、生まれ持った美醜にかかわらず、技術の習得によって等しくキレイになるチャンスを与えられているのだと、たとえ嘘でも、教えてくれていたら。私もあの、媚び媚びの「うふ!」が作れる、大人の女になっていただろうか。そうして、いつか生まれる娘に少しでも早くキレイの魔法を授けて、後天的に獲得しうる幸福を最大限に引き出してあげようと願う母親に、なっただろうか。

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ハジの多い人生

岡田育

趣味に対する熱量の高いツイートと時事に対する冷静な視点でのツイートを自在に繰り出すWEB系文化系女子okadaicこと岡田育。 普通に生きているつもりなのに「普通じゃない」と言われ、食うに困らず生きているのに「不幸な女(ひと)」と言わ...もっと読む

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コメント

uribo2005 okadaicいいなあ。上野千鶴子が新刊で敗北宣言し、日本のフェミはどこへ行くのだろう。 4年以上前 replyretweetfavorite

noserabbit_e  「隣の芝生がいくら青くとも、万能の免罪符なんてどこにもありはしない。」はっとする文章。単語の選択が好き。 4年以上前 replyretweetfavorite

kuta2koo ジョンベネちゃんを思い出す。あの事件に纏わるどす黒く理解不能なあれこれを思い出す。自分はまだ全然寛容さとは無縁なことを自覚する。| 4年以上前 replyretweetfavorite

youkeyzoo 第1回から読んでいるけれど、読むたびに何かが胸に迫ってきて、いろいろなことを再認識させられる。 5年弱前 replyretweetfavorite